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第15話

次の日の朝、目を覚ました先輩はだいぶ顔色もよくなっていて、熱も微熱程度に下がっていた。 ほっとしつつ、今朝もお粥を出すと……微妙な表情。やっぱり、お粥は苦手なんだよね。 せっかく作ったから、美味しく食べてほしいけれど…… でもそのおかげで、お昼はうどんを作ってあげる約束をすることができたから、嬉しい。 少なくとも、お昼までは一緒にいられるってことだから。 朝食のあと、片づけをすませると、洗濯機を回す。 汗を吸いまくったシーツと、ためまくっていた洗濯物と、えいっと洗濯槽に押し込んで、がんがん洗濯しまくる。 家事はもともと嫌いじゃないし、やっぱり好きな人のために何かしたいものだし…… 洗い終わった洗濯物をカゴに入れて部屋に戻り、ベランダにつながる一枚ガラスの窓を開けると、ベッドから身を起こした先輩が声をかけてきた。 「……葵、俺も干すの、手伝おうか?」 家事はあんまり好きではないはずの、先輩からの意外な言葉。 朝からずっとベッドに転がっていたから、きっと暇なんだろうなあ……でも。 「病人は無理をしません!」 申し訳ないけれど、きっぱりとお断りする。 熱は下がってきているとはいえ、今無理をしてもらったら治るのが遅れるかもしれないしね。 ベランダに出ると冬の外気にひやっとするが、日が差しているからだんだんぽかぽかしてきた。 大きなシーツを干すのに苦戦したが、何とか干し終わって部屋に戻ると、先輩はぶすーっとして横になっていた。 ───本当に子どもみたい。すねちゃってる。 知らないふりをして掃除機を取り出し、今度は掃除をはじめる。 いざ始めると夢中になってしまうので、あちこちまで掃除をし……ふと気がつくと、あっという間に時間がたっていたのか、ちょっと小腹がすいていた。 時計を見ると、お昼ご飯にはまだまだ。朝ごはんは、先輩に合わせてお粥だったし、消化が早かったのかもね…… ちらっとベッドを見ると……何だかまだすねてるみたい。 ……しょうがないなあ。 ベッドに近づいて顔を覗き込むと……ぷいっと目をそらす……もうっ。 「……先輩?」 「……………」 「僕、ちょっとおなかがすいたから、買ってきたゼリーを食べようと思ってるんだけど」 「……………」 「先輩も一緒に食べない?」 「……………」 「………先輩?」 「……………食べる」 ぷぷっ。やっぱり子どもだ。 すねていた大きな子どもは、のっそりとベッドから起き上がった。 冷蔵庫を覗くと、いろいろな種類のゼリーやプリンがずらっと並んでいる。 僕が買ってきたものと、長谷川さんたちが買ってきたものと、合わせると結構な数になっていたのだ。 「……先輩、何食べる?プリンにする?ゼリーにする?」 両手にゼリーとプリンを一つずつもって振り返ると、先輩がプリンをひょいっと取った。 ………あー……僕の好きな「なめらか生クリームプリン」…… 実は自分でも食べたくて、一個一緒に買っておいたんだけど……まあ、仕方がないか。 あきらめて他のプリンをとろうとしたら、横からすっと手が伸びた。 「俺はこれがいい。『果肉たっぷりオレンジゼリー』」 「……え?だって先輩はさっきの…」 「プリン?あれはお前のだろ?昔から大好きだったじゃないか」 「……………うん……そう」 覚えてたんだ……僕の好きなもの。 僕の好物なんて、そんなものに興味ないと思っていた…… 先輩は棚から小さめのスプーンを二つとると、部屋に戻った。 僕はその背中の後をおいながら、じんわり胸が温かくなって……やっぱり好きだなあと、改めて思ったのだった。

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