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第17話

出来上がったリゾットを皿に移し、ラップをして冷蔵庫にしまう。食べる前にレンジで温めるくらい、先輩だってできるだろう。 ざっと使った調理器具を洗って干すと、もってきていたバッグを肩にかけた。 ───さあ、帰ろう。 部屋に戻ってみると、すでに起きていた先輩はぼんやりと天井を眺めていた。 僕の気配に気づいたのか、すっとこちらを向く。 ……起きているなら、ちゃんと挨拶をしていこう。 「───先輩、僕、そろそろ帰ります」 「……………」 「夕飯にはリゾット作ってあるから、おなかがすいたら温めて食べてね。熱下がったからって、無理したらダメだよ」 「……………」 本当はずっとここにいたい。先輩のそばにいたい。 でも、そういうわけにはいかない。僕は明日、仕事があるし……先輩だって、僕なんかがそばにいたら、ゆっくりできないだろうし… だから、先輩としゃべりながらも、足を止めずに玄関に向かう。 ちょっとでも気持ちをゆるめると、帰れなくなってしまいそうだったから…… なぜか先輩もベッドから起き上がって、僕の後をついてくる……別に見送ってくれなくてもいいのに、気をつかってくれているのかもしれない。 ……やっぱり早く帰らなくっちゃ。 玄関で靴を履いてから立ち上がると、先輩のほうを振り返る。 「───それじゃあ、おだ…」 「あのさ!」 ───え? 別れの挨拶を途中で遮られて、ちょっとびっくりする。 このタイミングで、僕に何の用があるんだろう…… 「……看病してもらって、本当に助かった……だから、さ……あの、お礼がしたいんだよ」 「……………」 「今度、飲みに行こう!俺、おごるからさ……あ、飲みじゃなくても、食事とかでもいいし……」 「……………」 ………何だろう。 何だか、よく分からないんだけど。 先輩はちょっと必死な感じだし……お礼がしたいとか言ってるし…… でも、別にお礼なんて必要ないんだ……だって、僕が僕のやりたいことをしていただけだから…… 「……あのさ、2年も空いちゃったけどさ……また、前みたいに会いたいんだよ……」 「……………」 ───前みたい? 前みたいに……ってことは、もう一度「恋人」に戻ってくれるの? 僕にもまだ、望みがあるってこと…? 「ほら……あの……友達?……みたいな?……もともと俺たち、先輩後輩の関係だし…さ……」 「……………」 「……………」 『友達』 『先輩後輩の関係』 ……僕が思っている「前みたいに」とはほど遠い言葉が、僕の胸を突き刺した。 ああ、やっぱり先輩は僕のこと、好きじゃなかったんだな…… 何度キスしようと、体を重ねようと……僕はやっぱり、ただの後輩でしかなくて…… 恋人だって思われてはいなかったんだな… どこまでいっても僕はやっぱり、特別な存在にはなれなかったんだ。 分かっていたのに、分かっていたはずなのに……一瞬期待した分だけ心が軋む。 ───帰りたい。 これ以上、ここにいれば泣いてしまいそうで…今のこの状況をとにかく何とかしたくて…気づいたら僕は口を開いていた。

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