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第18話

「───2年って、長いよね」 「………え?」 「2年もあったなら、何でもできたはずだよ。メールするとか……会いに行くとか……」 「……………」 「でも、僕たちは何にもしなかった……一歩も動き出さなかった……」 「───それは!」 「それが答えなんだと思う。僕たち、もう、一緒に時間を過ごす必要はないんだ」 「……………」 「今は体調が悪くて弱っているから、誰かに頼りたいだけだよ……頼る相手は、僕である必要はない。必要があったなら、この2年の間に動いていたはずだから」 「……………」 ───苦しい。 自分の吐き出した言葉が、自分の胸を突き刺す。 なんだこれ。諸刃の刃だ。 本当は一緒にいたいくせに、本当は先輩が必要なくせに、本当の気持ちとは違う言葉が滔々と口からあふれ出す。 動かなかった自分を棚に上げて、先輩の不義理を責めるなんて。 最低だ…… こんな最低な僕を、非難してほしい。 ……けれど、先輩は何も言わない。 あきれているのか、うんざりしているのか…… どうせとどめを刺すのなら、もう今すぐにしてほしい……僕の心が汚れきってしまう前に。 「……看病しにきてよかった。僕も気持ちの整理ができたから……これで前に進めるよ」 「…………そうか」 『前に進める』なんて嘘ばかり。 気持ちの整理なんて一つもできてないのに、なんて嘘つきなんだ。 こんな見え透いた嘘、見破ってほしい。見破ってほしいのに…… 「………昨日言ってた『気になる人』と、うまくいくといいな。お前なら……きっとどんな相手だって振り向いてくれるよ」 先輩が僕の新しい恋を応援する。 これは一体どんな茶番? どんな皮肉? うまくいくはずがないのに……どんな相手でも振り向いてくれるというのなら、どうして先輩は振り向いてはくれなかったの? ……気持ちが悪い。 どろどろとした感情に支配されそうで、吐き気がする。 「うん、ありがと。先輩にそう言ってもらえると、うまくいきそうな気がするよ」 そう言って偽物の笑顔で微笑んだ。 もう、自分が自分とは思えなかった……よく笑えるものだ。 お芝居の終わりまでもう少し…… 「僕も今度病気になったら、『気になる人』にメールしてみようかな。看病に来てくれるかも」 「それが近づくきっかけになったりして、な」 「ね!いいよね。やってみよう───じゃ、そろそろいくね。……先輩、さようなら」 笑って手を振ると、僕は逃げるようにドアから出た。 先輩の『さよなら』は、絶対に聞きたくなかったから。 ────────────── ──────────── 「────────やっぱり、ね……」 ドアが閉まってしばらくの間、扉の正面に立っていた。 心と体がぐちゃぐちゃで動けなかったというのもあるし、先輩がどうするのか確かめたかったのもある。 でも、目の前のドアはいつまでたっても閉じたままで……先輩が僕を追いかけてくることはなかった。 当たり前だ……だって僕は必要のない人間なんだから。 思わずしゃがみこんでしまう。 ……終わったなぁ。 一人ではじめて、一人で盛り上がって、一人で悩み続けた恋愛が、今ようやく終わったんだ………動けない僕の想いを置き去りにして。

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