50 / 243
第18話
「───2年って、長いよね」
「………え?」
「2年もあったなら、何でもできたはずだよ。メールするとか……会いに行くとか……」
「……………」
「でも、僕たちは何にもしなかった……一歩も動き出さなかった……」
「───それは!」
「それが答えなんだと思う。僕たち、もう、一緒に時間を過ごす必要はないんだ」
「……………」
「今は体調が悪くて弱っているから、誰かに頼りたいだけだよ……頼る相手は、僕である必要はない。必要があったなら、この2年の間に動いていたはずだから」
「……………」
───苦しい。
自分の吐き出した言葉が、自分の胸を突き刺す。
なんだこれ。諸刃の刃だ。
本当は一緒にいたいくせに、本当は先輩が必要なくせに、本当の気持ちとは違う言葉が滔々と口からあふれ出す。
動かなかった自分を棚に上げて、先輩の不義理を責めるなんて。
最低だ……
こんな最低な僕を、非難してほしい。
……けれど、先輩は何も言わない。
あきれているのか、うんざりしているのか……
どうせとどめを刺すのなら、もう今すぐにしてほしい……僕の心が汚れきってしまう前に。
「……看病しにきてよかった。僕も気持ちの整理ができたから……これで前に進めるよ」
「…………そうか」
『前に進める』なんて嘘ばかり。
気持ちの整理なんて一つもできてないのに、なんて嘘つきなんだ。
こんな見え透いた嘘、見破ってほしい。見破ってほしいのに……
「………昨日言ってた『気になる人』と、うまくいくといいな。お前なら……きっとどんな相手だって振り向いてくれるよ」
先輩が僕の新しい恋を応援する。
これは一体どんな茶番?
どんな皮肉?
うまくいくはずがないのに……どんな相手でも振り向いてくれるというのなら、どうして先輩は振り向いてはくれなかったの?
……気持ちが悪い。
どろどろとした感情に支配されそうで、吐き気がする。
「うん、ありがと。先輩にそう言ってもらえると、うまくいきそうな気がするよ」
そう言って偽物の笑顔で微笑んだ。
もう、自分が自分とは思えなかった……よく笑えるものだ。
お芝居の終わりまでもう少し……
「僕も今度病気になったら、『気になる人』にメールしてみようかな。看病に来てくれるかも」
「それが近づくきっかけになったりして、な」
「ね!いいよね。やってみよう───じゃ、そろそろいくね。……先輩、さようなら」
笑って手を振ると、僕は逃げるようにドアから出た。
先輩の『さよなら』は、絶対に聞きたくなかったから。
──────────────
────────────
「────────やっぱり、ね……」
ドアが閉まってしばらくの間、扉の正面に立っていた。
心と体がぐちゃぐちゃで動けなかったというのもあるし、先輩がどうするのか確かめたかったのもある。
でも、目の前のドアはいつまでたっても閉じたままで……先輩が僕を追いかけてくることはなかった。
当たり前だ……だって僕は必要のない人間なんだから。
思わずしゃがみこんでしまう。
……終わったなぁ。
一人ではじめて、一人で盛り上がって、一人で悩み続けた恋愛が、今ようやく終わったんだ………動けない僕の想いを置き去りにして。
ともだちにシェアしよう!