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第20話
一日の仕事を終えて、また部屋に戻ってきた。
鍵を開けて入った部屋は、昨日と同じく真っ暗。
一人の部屋には慣れているはずなのに、寂しく感じてしまうのはなぜだろう……
床にバッグを置きっぱなしにすると、とりあえず寝間着に着替えてからキッチンに入る。
───夕飯でも作ろう。
食欲はちっともわかないが、とりあえず何か口にしないと薬が飲めない。
冷凍庫を覗くとご飯が保存してあったので、これでお粥を作ることにする。
鍋を取り出して調理をしながら考えるのは、やっぱり先輩のことで……ついこの前、先輩のためにお粥を作ったのに、今度は自分のために作るなんて、変な感じ。
もしかして、これって……先輩から風邪をもらってしまったってことかな……
だとするなら……もう治らなくてもいいや。
というか、治らないほうがいい。
だってこれって、先輩が僕にくれた最後のものってことでしょ…?
だったら一生このままでいい……
そんなくだらないことを考えながら手を動かしていると、いつのまにかお粥が完成していた。
少し大きめの椀にうつし、テーブルに置く。
箸のかわりにレンゲを置いて…
「いただきます」
一口分のお粥をすくって口に運ぶと…
「─────────っ!?」
……咀嚼した瞬間、信じられないほど胃がむかむかして、思わず口をおさえて駆け出す。
たどり着いたトイレで便器に顔を近づけると、今食べたものをすべて吐いてしまった…
丸一日ほとんど食べていないので、吐き出すものがほとんど胃に入っていない。それでも吐き気はおさまらず、涙を流しながら無理に吐きつづけた。
ある程度出し切って落ち着くと、口の中が不快で、ふらふらしつつも洗面台に近づいてうがいをした。
……このくらい平気だとたかをくくっていたが、思っていた以上に体のダメージは大きかったようだ。
部屋に戻る途中、キッチンでお椀に入ったお粥が見えた。けれども、続きを食べようという気持ちにはならなかった。
片づけもせずそのままにして、ベッドに倒れこむと、頭からすっぽりと毛布を被る。
もう寝てしまおう。
寝ればきっと、少しはよくなる。それに……
寝ればきっと、夢の中で先輩に会える。
現実では一緒にいられないなら、せめて夢の中で会いたい。
そしていつものように、頭を撫でてほしいんだ。
ぎゅっと目をつぶって静かにその時を待っていると、ふっと意識が飛んでいった。
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