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第21話

───目を開けると、そこは闇の世界だった。 目を閉じても真っ暗。目を開いても真っ暗。 伸ばしたはずの自分の手ですら、全く見えないほどの漆黒。 「───あのー!誰かいませんかー!」 急に怖くなって、大きな声で呼びかける……が、返事はない。 返事どころではない。 どんなに耳を澄ませても、何ひとつ音がしないのだ。 「───すみませーん!誰かいないんですかー!?」 もう一度呼びかけてみるが、どれだけ待っても物音ひとつしない……無音の空間のようだ。 見えないけれど、何かあるのではないかと、そろそろと手を伸ばし、歩を進める。 一歩……また一歩…… しかし、どれだけ歩いてみても、何にも触れることがない。だいぶ歩いたような気がするのに、ここには何もないのだ。 何も見えない。 何も聞こえない。 何も触れない。 何もない世界。 この世界には、ただ一人……僕がいるだけ。 他には何もない……誰もいない世界なんだ。 「………やだ」 怖い。 一人は怖い。 こんな何もないところに一人でいるなんて、怖い。 助けてほしい。 助けて…! 「………先輩!どこ!?助けてよ!!」 大きな声で叫ぶ。 やみくもに走り出す。 暗闇を走るのが、ちっとも怖くない……この世界に、先輩がいないことのほうが怖い。 「………先輩!一人にしないで!」 涙があふれて頬を濡らすが、返事は返ってこない。 怖い……怖い…… 助けて! 「───先輩!!」 はっと目を開いた…目の前にはいつもの天井。横を向くといつもの部屋だ。窓から入る光は少し翳っていて、そろそろ日が暮れようとしている。 ベッドサイドに置いている目覚まし時計を見ると、4時を知らせていた。 「……………夢?」 相当うなされたのか、驚くほどびっしょりの汗をかいていた。 ………また、同じ夢だ。 昨日帰ってきてから、もう何度見たのだろう。繰り返し、繰り返し、見ては覚め、見ては覚め……同じ夢を見続けている。 この世界にたった一人……一人ぼっちになる夢…… 夢を見るたびに先輩の名を呼ぶが、何度呼ぼうとも一度も助けには来てくれなかった。 ぎゅっと、毛布を握りしめる。 じんわりと涙があふれてきて、口唇を噛んで我慢するが、こらえきれず頬を伝って落ちた。 ……どうしてなんだろう。 先輩の夢が見たいだけなのに…… せめて夢の中でくらい、会えたらいいのに…… とうとう先輩は、夢の中にも現れなくなってしまったのだ……

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