56 / 243

第24話

「ど、どうした!?うまくいかなかったのか!?」 泣いている僕に気づいて、慌てて先輩が声をかける。 どうやら僕が悲しくて泣いているのだと思っているらしい。 「……ううん……ちゃんと来てくれた……」 返事をしながら首をふると、ぽろぽろと涙がこぼれた。 最近の僕は泣いてばっかりだ……体中の水分が入れ替わったんじゃないかと思うくらい。 いつからこんなに泣き虫になったんだっけ……? 「そうか……よかったな……で、相手はもう帰ったのか?」 「……ここにいる」 「……は?……今?……ここに?」 返事のかわりに、うんとうなずいた。 先輩はちゃんと目の前に、僕の前にいてくれている。 ……それがとっても嬉しくて、幸せで、僕たちのやりとりが噛み合っていないことに、僕は少しも気づいていなかったんだ。 嬉しく嬉しくて仕方がない僕とは対照的に、先輩は怪訝な表情をしている。 部屋の中をやけにきょろきょろと見渡して、はあ……とため息をつくと口を開いた。 「───そっか……なら俺、邪魔だろうから帰るわ……今度こそ、幸せになれよ」 ─────え? 一瞬、先輩が何を言っているのか分からなかった。 邪魔? 帰る? 幸せになれ? 意味の分からない言葉が並んで、状況が理解できない。 先輩が何を考えているのか…読み取ろうにもうつむいていて、表情が見えない。 何とか真意をつかみたくて顔を覗き込もうとしたら、先輩はくるりと僕に背を向けて、ドアに向かって歩き出してしまった。 「──────ふぇ…、…うぅー……」 思わず嗚咽がこぼれた。 泣きたくないのに……泣いたら先輩に迷惑になるのに……でも、どうしても抑えることができない。 だって……先輩が帰ってしまう。 僕をおいて帰ってしまう。 勇気を出してメールをしたのに……会いに来てくれて嬉しかったのに…… 一体何がいけなかったの…? 振り向いてくれるんじゃ、なかったの…? もう、足に力が入らなくって、床にしゃがみ込んでしまった。 「…………葵?」 先輩は、なぜか僕に駆け寄ると……優しく背中を撫でてくれた。 帰ろうとする先輩と、背中を撫で出てくれる先輩と……相反する姿に、もう訳が分からない……頭の中はぐしゃぐしゃだ。 「……うー、嘘つきぃ……振り、向いて……ひっく……くれ、るって……言っ、た、のに……」 「───嘘なんかついてないよ。ちゃんと振り向いてくれたんだろ?」 さっきは帰ろうとしたのに「嘘をついていない」と言われ、思わずカッとなってしまう。 「嘘!じゃあ、何、で帰っ、るの!?2年、経っても、先……輩はやっぱり……僕のこと、好き、になっ……くれない!」 先輩の言葉に期待した僕が馬鹿みたいだ。 今度こそ振り向いてもらえるかも、なんて……今度こそ好きになってもらえるかも、なんて…… 泣きながらしゃべるからうまく息が吸えない……だからますます涙が出てきて、ますます思考が絡まってしまう…… そんな僕の様子に、あきれてしまったのかもしれない。 「───?……ちょっと、何がどうなってるのか、よく分かんないんだけど……」 先輩の戸惑ったような、困惑しているような声… 先輩には僕の気持ちも、僕の苦しさも、何一つ伝わってはいないんだ…… ───もう駄目だ……やっぱり僕は駄目なんだ…… これ以上はもう、そばにいるのがつらくて……我慢できなくって……なんとか立ち上がると部屋に戻って、ベッドにとびこむ。 頭から毛布を被ってすべてをシャットアウトし、自分だけの空間を作るともう限界で……一人でしくしくと泣いてしまった。

ともだちにシェアしよう!