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第24話
「ど、どうした!?うまくいかなかったのか!?」
泣いている僕に気づいて、慌てて先輩が声をかける。
どうやら僕が悲しくて泣いているのだと思っているらしい。
「……ううん……ちゃんと来てくれた……」
返事をしながら首をふると、ぽろぽろと涙がこぼれた。
最近の僕は泣いてばっかりだ……体中の水分が入れ替わったんじゃないかと思うくらい。
いつからこんなに泣き虫になったんだっけ……?
「そうか……よかったな……で、相手はもう帰ったのか?」
「……ここにいる」
「……は?……今?……ここに?」
返事のかわりに、うんとうなずいた。
先輩はちゃんと目の前に、僕の前にいてくれている。
……それがとっても嬉しくて、幸せで、僕たちのやりとりが噛み合っていないことに、僕は少しも気づいていなかったんだ。
嬉しく嬉しくて仕方がない僕とは対照的に、先輩は怪訝な表情をしている。
部屋の中をやけにきょろきょろと見渡して、はあ……とため息をつくと口を開いた。
「───そっか……なら俺、邪魔だろうから帰るわ……今度こそ、幸せになれよ」
─────え?
一瞬、先輩が何を言っているのか分からなかった。
邪魔?
帰る?
幸せになれ?
意味の分からない言葉が並んで、状況が理解できない。
先輩が何を考えているのか…読み取ろうにもうつむいていて、表情が見えない。
何とか真意をつかみたくて顔を覗き込もうとしたら、先輩はくるりと僕に背を向けて、ドアに向かって歩き出してしまった。
「──────ふぇ…、…うぅー……」
思わず嗚咽がこぼれた。
泣きたくないのに……泣いたら先輩に迷惑になるのに……でも、どうしても抑えることができない。
だって……先輩が帰ってしまう。
僕をおいて帰ってしまう。
勇気を出してメールをしたのに……会いに来てくれて嬉しかったのに……
一体何がいけなかったの…?
振り向いてくれるんじゃ、なかったの…?
もう、足に力が入らなくって、床にしゃがみ込んでしまった。
「…………葵?」
先輩は、なぜか僕に駆け寄ると……優しく背中を撫でてくれた。
帰ろうとする先輩と、背中を撫で出てくれる先輩と……相反する姿に、もう訳が分からない……頭の中はぐしゃぐしゃだ。
「……うー、嘘つきぃ……振り、向いて……ひっく……くれ、るって……言っ、た、のに……」
「───嘘なんかついてないよ。ちゃんと振り向いてくれたんだろ?」
さっきは帰ろうとしたのに「嘘をついていない」と言われ、思わずカッとなってしまう。
「嘘!じゃあ、何、で帰っ、るの!?2年、経っても、先……輩はやっぱり……僕のこと、好き、になっ……くれない!」
先輩の言葉に期待した僕が馬鹿みたいだ。
今度こそ振り向いてもらえるかも、なんて……今度こそ好きになってもらえるかも、なんて……
泣きながらしゃべるからうまく息が吸えない……だからますます涙が出てきて、ますます思考が絡まってしまう……
そんな僕の様子に、あきれてしまったのかもしれない。
「───?……ちょっと、何がどうなってるのか、よく分かんないんだけど……」
先輩の戸惑ったような、困惑しているような声…
先輩には僕の気持ちも、僕の苦しさも、何一つ伝わってはいないんだ……
───もう駄目だ……やっぱり僕は駄目なんだ……
これ以上はもう、そばにいるのがつらくて……我慢できなくって……なんとか立ち上がると部屋に戻って、ベッドにとびこむ。
頭から毛布を被ってすべてをシャットアウトし、自分だけの空間を作るともう限界で……一人でしくしくと泣いてしまった。
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