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第26話
───嵐が去ったように、部屋は静まり返っていた。
くるまっていた毛布の中からは、もう何の物音も聞こえなかった。
さっきの大きな音は、ドアを閉める音だった……ということは……
「……………先、輩?」
バサッと毛布をどけて、あたりの様子を伺うが、部屋の中には誰もいない。
呼びかけにこたえる声もない。
「……………先輩!?」
───急に怖くなって、大きな声で先輩を呼ぶ……けれどもちろん、返事はない。
当然だ。
あんなに嫌いだと何度も言われたら、怒って帰るに決まってる。
自分でしたことの結果なのに、胸が苦しい……僕、とんでもないことをしてしまったんだ。
「……………ふぇっ……嘘っ……やだぁ……」
どこかで、驕っていたんだ。
何だかんだあったけれど、先輩からメールで呼び出してくれたし……今日も会いに来てくれたし……もしかしたら先輩もまだ、僕のことを気にしていてくれているんじゃないかって。
だからあんなこと……
嫌いだなんて言って……駆け引きみたいなことして……
───どうしよう……取り返しのつかないことをしてしまった。
「……………待って………違っ…の………」
───謝らなくっちゃ!
追いかけて、謝って、本当は好きだってちゃんと言わなくっちゃ!
今先輩が帰ってしまったら、本当に終わりなんだ。
ベッドから飛び起きて部屋をバタバタと走り、外へ出ようと玄関に向かったところで……
「……………せんぱ………………っ!?」
「────何?」
………玄関の前で足がぴたりと止まった……先輩が、ドアにもたれて立っていたんだ。
「…………先輩……ど、して?」
「───どうして、って?」
「……だっ、て……帰ったんじゃ、なかったの?」
「───お前をほうっておいて、帰るわけないだろ」
呆れたというような顔……ちっとも優しくない。
───意地悪な声。なのに、とっても嬉しくて……
「……で、何が違うって?……言いたいこと、あるんだろ?」
「………………」
「………………」
「………………」
「………言わないなら帰るけど?」
「………うー……」
……先輩が僕を追い詰める。
結局また、自分は何にも気持ちを伝えてくれないのに……
でも、また一人置いて行かれるかもと思ったら、それが怖くって……しかたなく、思っていることを話すしかなかった……
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