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第2話

駅前の広場には、誰が何のために作ったのかは全く見当もつかないが、インパクトだけは他に負けない謎のオブジェが置いてある。 その見た目の印象強さから待ち合わせの定番スポットになっていて、俺たちも待ち合わせに利用することが多かった。 で、今回もそう。 広場につくと、オブジェの前にはすでに葵が立っていた。 シンプルなコートに明るめの色合いのチェックのマフラー……思わず笑みがこぼれる。 あれは俺が、何年も前のクリスマスにプレゼントしたマフラーだ。 それに仕事帰りだからか、前から使っているショルダーバッグとは別に、大きめのトートバッグを足もとに置いている。 うつむいているから表情は読み取れないが、きっと不安でいっぱいなはずだ。自分から誘うなんて初めてのことだからな。 「───葵!!」 二人の間の距離がもどかしく、思わず大きな声を出して名前を呼ぶ。 すると顔を上げた葵は俺の姿を認めると、ぱあっと花が開くように顔をほころばせた。 「───先輩!」 足元の荷物を手に持つと、嬉しそうな顔でこちらに走ってくる。 ……何だよ、その顔。 そんな幸せそうな顔で、頬を赤くしてさ……見てるこっちが照れるっつーの。 「あの……こんばんは」 「おう。待たせて悪いな」 「全然。今着いたところだから」 そう言ってふふふと笑うが、それは嘘だ。この駅の時刻表ならちゃんと把握している。最短でも10分は待っているはずだが、そんなことを言わないのが葵の葵らしいところだ。 「何食べようか。何かリクエストはあるか?」 「………………何でもいいの?」 「何でもいいよ」 うーん……と、しばらく小首をかしげて悩む。 そのしぐさもまた、かわいいから困る。でれでれした顔にならないようにするのは大変なんだ。 「うちの会社は給料出たばっかりだし、久しぶりの食事だからな。遠慮なんてすることないから、何でも食べたいものを言えよ」 2年前までは、選べないときにはすぐに俺が決めてたけれど、ここは葵の希望にこたえたい。 「じゃあ…」と、葵は口を開くと、悩んだ末の結論を告げた。 「───じゃあ、ラーメン!ラーメン食べたい」

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