65 / 243
第3話
「──────はあ!?」
思ってもない返事に驚いてしまった。
だって食べたいものなら何でもいいんだぞ。金の心配だって、する必要ないのに……また、遠慮してんのかよ。
「あのなー、別に遠慮する必要なんてないんだよ。金だってちゃんとおろして……」
そこまで話したところで、言葉が出なくなった……明らかにしょぼんとした様子で、葵がうつむいてしまったからだ。
……そんなに食べたかったのか?ラーメン。
「……じゃあ、いいです。先輩の食べたいものが食べたいです」
……あっさり折れてしまった。
まーた我慢してるんだ、こいつは。
嫌われたくないって思ってんのか?それともわがままは言わないって思ってんのか?
でもさ、俺はお前に好きなものを食べさせたいんだよ。別に俺が食べたいものを食べるつもりで、ここに来たわけじゃない。
だってそうじゃないと、お前の笑顔が見れないだろ?
「いや、いいよ。ラーメンにしよう」
うつむいたままの葵の頭をわしゃわしゃと撫でて、そう言ってやる。
「でも…」と顔を上げた葵はやっぱり涙目で、全く予想通り過ぎて困る。
「食べたいんだろ?ラーメン……俺もお前が食べたいと思ってるものが食べたいんだ。気にすんな」
予定とはだいぶ違うけれど……まあ、そんなところも俺たちらしいかもな。
「で、どこか行きたい店とかあるのか?」
どうしてもという位だから、行きたい店とかあるんじゃないのか?
そう思ってきいてみると……
「あのね…僕、昔一緒に行ったあのお店にまた行きたいんだ」
指で目尻をこすりながらも、にっこり笑って葵は言った。
───あの店?
それから続けて言った店の名前は、俺の家の近くにある、至って普通のラーメン屋だった。
ともだちにシェアしよう!