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第3話

「──────はあ!?」 思ってもない返事に驚いてしまった。 だって食べたいものなら何でもいいんだぞ。金の心配だって、する必要ないのに……また、遠慮してんのかよ。 「あのなー、別に遠慮する必要なんてないんだよ。金だってちゃんとおろして……」 そこまで話したところで、言葉が出なくなった……明らかにしょぼんとした様子で、葵がうつむいてしまったからだ。 ……そんなに食べたかったのか?ラーメン。 「……じゃあ、いいです。先輩の食べたいものが食べたいです」 ……あっさり折れてしまった。 まーた我慢してるんだ、こいつは。 嫌われたくないって思ってんのか?それともわがままは言わないって思ってんのか? でもさ、俺はお前に好きなものを食べさせたいんだよ。別に俺が食べたいものを食べるつもりで、ここに来たわけじゃない。 だってそうじゃないと、お前の笑顔が見れないだろ? 「いや、いいよ。ラーメンにしよう」 うつむいたままの葵の頭をわしゃわしゃと撫でて、そう言ってやる。 「でも…」と顔を上げた葵はやっぱり涙目で、全く予想通り過ぎて困る。 「食べたいんだろ?ラーメン……俺もお前が食べたいと思ってるものが食べたいんだ。気にすんな」 予定とはだいぶ違うけれど……まあ、そんなところも俺たちらしいかもな。 「で、どこか行きたい店とかあるのか?」 どうしてもという位だから、行きたい店とかあるんじゃないのか? そう思ってきいてみると…… 「あのね…僕、昔一緒に行ったあのお店にまた行きたいんだ」 指で目尻をこすりながらも、にっこり笑って葵は言った。 ───あの店? それから続けて言った店の名前は、俺の家の近くにある、至って普通のラーメン屋だった。

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