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第4話

二人で電車に乗ってしばらく、俺の家の近くの駅に降り立った。 駅前の公園を抜けて、地元の商店街の一角に目的の店はある。 「……わあ、何にも変わってないねー」 店の前に立つと、葵は目を細めて嬉しそうにつぶやいた。 家の近くだったし、値段もそこそこなのもあって、2年前までは二人でよく食べに来ていた。きっとその頃のことを思い出して懐かしんでるんだろう。 俺が素直になっていればこんな思いをさせることもなかっただろうに……と、ちくりと胸が痛む。 「……入るぞ」 ガラッと入口の引き戸を開けると、「いらっしゃいませー」という明るい声が響いた。 店内に入るとテーブル席に案内される。 席についてもきょろきょろしている葵に苦笑しつつ、メニューを渡す。 「そんな、劇的にこの店が変わったりすることないだろ。メニューだって2年前と大差ないぞ」 「うん……変わらないのがちょっと嬉しくって」 そう言ってはにかんで笑った葵が尋常じゃなくかわいらしくて、絶対だらしないにやけ顔になっているはずだが、葵はメニューに目を落としていたので、そのことには気づかない。 二人ともメニューが決まったところで、ちょうど店員がお冷を持ってきたので、ついでに注文を頼む。 「醤油ラーメンと餃子、半チャーハン……お前は?」 「僕も醤油ラーメンをお願いします」 注文をし終わると、葵は一口水を飲んで言った。 「先輩、注文するものは相変わらず一緒なんだね」 「まーな。お前だって相変わらず醤油ラーメンなんだな」 「好みって、急には変わらないんだね」 「そうだな」 2年あれば人は変わるのか。 2年あっても人は変わらないのか。 再会して2週間じゃ、まだよくわからないが……変わっていても変わらなくても、こいつがやっぱりかわいくて仕方ないのは間違いないらしい。 ───このあと、どこまで俺の心臓がもつのか、正直心配だわ。

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