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第9話

駅から10分歩いてたどり着いた我が家は、学生時代から住んでいる年季の入った建物で、冬はめちゃくちゃ部屋が寒い。 葵を部屋に招き入れると、急いでエアコンを動かす。暖房がききはじめるまで、しばらくは我慢だな。 「葵、寒いだろ?先に風呂入るか?」 リモコンを操作しながら、何にも考えずに言った一言だったが… 「───ん、あっ……えっ……あ…うん……はい……」 返ってきた返事が、おかしいくらいしどろもどろで…葵の顔を覗くと、真っ赤になっていた。 あー……まあ……『そういうこと』する前って感じがするもんな、風呂に入るって。この流れだと。 今日一日で何回顔を赤くしてるんだろうな、こいつ……まあ、かわいいからいいけど。 「ちょっと待ってろよ、今、湯を張るから」 「……あっ、僕、シャワーでいいよ」 「だめ。今日は寒いし、ちゃんと体を温めないとまた風邪ひくぞ。俺も湯船につかりたいし」 「えっ!一緒に入るの?」 「ん?一緒に入っていいのか?」 「だ、だめ!──一緒にお風呂なんか入ったら、僕、心臓が爆発しちゃう!」 ぶんぶんと首を振りながら、一緒に風呂に入るのは拒否されてしまった。 ……このあと、風呂に入るより恥ずかしいことをするっていうのに、ちゃんと分かってるのか? 苦笑しつつ、準備をしに風呂場へ移動した。 先に葵が風呂に入っている間に、部屋の隅に畳んで置いてあったコートとマフラーをハンガーにかけてやる。 ……いつ、渡したんだっけ……このマフラー。 改めて見ると、だいぶくたびれてきている感じがするが、汚れたところはないので、きっとまめに手入れをしていたのだろう。 こういうところが、かわいいんだよな……本人に自覚はないが。 あー……本当に俺、今日は理性を保っていられるのかねー……正直、自信ないんだが…… ちなみにこのあと、桜色に頬を染めた湯上り姿の葵の殺人的かわいらしさに、理性が虫の息となった俺は、超光速で風呂場に逃げ込むことになる。 ……先に心臓が爆発するのは、間違いなく俺だな。

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