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第18話

……嘘、つき…? 思ってもいなかった葵の言葉に、ちっとも理解ができなかった。 そりゃあ、俺は優しくないし、気も利かないし、意気地なしだし…って自分で言っててへこむくらい、いいとこなしだと思う。 でも、葵に嘘なんてついてはいない。 自分の気持ちをごまかそうとしたけれど……結局それはできなかった。 ごまかせなかったからこそ、今もこうして一緒にいられるんだ……まあ、明日はどうか、分からなくなっているけど… 今日だって、ここまで一緒に過ごしているけど、嘘をついたなんて覚えはない。 何かの勘違いじゃないのか? 「……葵、俺、嘘なんかついてないぞ」 「………それ、も……嘘だ…もん……」 「いやっ……だから、お前に隠しごとや嘘なんて、一つもないって」 「また嘘!なんで嘘つくの!?」 毛布を被っていても大きく聞こえる声で怒鳴ると、がばっと顔を上げた。 「……『2年ぶりのキス』なんて、嘘……本当は他の人と付き合ってたんでしょ!?」 ───はああああ!? 思ってもいなかった誤解に、呆れて言葉を失っていると、葵がきっと睨んできた。 「とぼけないでっ!……僕には先輩だけなのに……他には誰もいないのに……やっぱり僕なんてどうでもよかったんだ…!」 きつく俺を睨んでいた瞳に、また涙がじわっとたまりだした。 ……それを見ると、胸がぎゅっと苦しくなる……といっても、俺には何にも心当たりがないのだけれど。 「……男の、人?……女の人?……僕より好きになったの?……かわいかった?……それとも綺麗な人なの?」 そんな馬鹿みたいなことを俺に聞きながら、葵の顔はみるみる崩れて、涙でぼろぼろになっていく。毛布を握った手は、ぷるぷると震えていた。 「しかたないよね……だって、僕、男だし。触っても柔らかくないし。地味でちっともかわいくないし……僕なんかといても、何もいいことなんてない……先輩が他の人を好きになっても仕方がないよ……」 さっきまで俺とキスをしていた口唇からあふれ出るのは、あきれるくらい自分を卑下した自己否定の言葉。 あまりにもすらすらと出てくる言葉に、胸が痛む。 ……きっと、俺と離れていた2年の間、ずっとこんなことを考え続けていたのだろう。 「……僕は、2番でもいい…3番目だっていいよ。先輩といられるなら……だから、嘘はつかないで?本当のこと言ってよ…」 さっきまでの怒りまくっていた姿とは打って変わって、静かに、自分に言い聞かせるように葵は言った。 ……2番……3番って……それでいいって…… 俺にとって、葵は1番じゃないと思ってるってことだろ? それってつまり… 「───お前……俺が浮気したと思ってるのか…?」 ───ようやく葵の涙の理由がわかった…… 葵が下を向くと、零れ落ちた涙が毛布に吸われていった。

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