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第19話

「……何だよ、それ…」 何だよ…俺のこと、浮気するようなやつだと思ってたのか? そんな軽いやつだと、思ってたのかよ… ───何だかもうがっくりときて、さすがの俺もすっかり萎えてしまった。 何をどう勘違いすればそんな考えに至るのか……ちっともわからなかったが、それももうどうでもよくなってしまった。 正直な話、この2年間、一度だって浮気なんかしたことない。 男でも女でも、二人っきりでデートした、なんてことすらない。 合コンだって何度も誘われたけれど、行ってない。 つーか、女子に告白されたことくらいあったけど、全部その場で断ってきた。 俺には葵以外、考えられなかったからだ。 なのになんだよ、この扱い。俺が浮気者? こんなに一途な男に向かって、何ていう仕打ちだ! ……こんなこと、自分でいうのもどうかと思うが、俺はそんなに気が長くない。 どんなことでも受け止めてやる、みたいな度量もない。 長年大事に思ってきた相手から、身に覚えのないことで疑われて… 気がつけば、真っ黒なものがむくむくと、胸の中で成長してきた。 ───まあ簡単に言えば、腹が立ってきたってことだ。 イライラした気持ちを制御できず、というか制御するつもりもなく、葵がもぐりこんでいる毛布を掴むと、ぐいっと一気に引っ剥がした。 「──────ひゃっ!?」 いきなり身を隠すものを奪われて、驚いている隙に葵の正面に入ると… 「───っ!!?痛い痛い痛ーい!!」 ……両方の頬っぺたをつまんで、左右に引っ張ってやった。 手を離すとすぐ、葵は両手で頬を押さえ、「うー…」と涙声で呻いた。 ふん。 思い知ったか、俺の怒り。 俺を疑った罰だからな、それ。 「……あのなあ。何でもかんでも一人で自己完結するな!何のために今、一緒にいるんだよ!」 目に涙をためてはいるが、葵はちゃんとこちらを見てる。 ちゃんと話を聞いている……よし。 「疑うようなことがあるんだったら、勝手に答えを出すんじゃなくて、ちゃんと聞け。ちゃんと答えるから!……何で浮気してるって思った?俺、疑われる覚えは全くないぞ?」 ほら、言え。 俺を信じて、疑問をぶつけてみろよ。 「……だって…」 「だって?」 「……コンドームもローションも…僕としてたときのと、違うから…」 「……はあ?」 「だからっ!……どっちも昔使ってたのと違ってたから……僕以外の人とも使ってるんでしょ?じゃなきゃ、使いきって新しいものなんか買わないもん!」 そう言って、うるうるした瞳で俺を睨んだ。 ……睨まれたところで、ちっとも怖くはないが。 「で?」 「………で、って?」 「だーかーらー、それから?」 「それからなんてないよ!それで十分でしょ!?」 葵はぎゅっとシーツを掴んで、目をそらした。 本当は毛布に隠れたいところなのだろうが、残念、毛布は俺が取り上げたままだ。 ───あーあ。 ため息をついて、わしゃわしゃと頭を掻いた。 ……何だよ。そんなことだったのかよ。 「………お前さー…自分でコンドーム買ったことないだろ……」 優しく親切な俺は、この世間知らずな恋人に謎解きをしてやることにした……

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