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第21話
───やれやれ。
ベッドの上で体育座りをして恥ずかしさにぷるぷるしている葵を尻目に、脱ぎ散らかしていた服の中から下着をとって履き直す。
まあ、こんなはちゃめちゃな展開になったし、今さら続きを……何てことにはならないだろう。
俺もまあ……さすがに萎えたし…
ベッドに転がっていたローションとコンドームをもとの引き出しに戻そうとしたとき、葵がぽつりと言った。
「………もう、しないの?」
「しないよ」
こんだけ大騒ぎしたんだし、葵だってそんな気分にはなれないだろ…?
まあ、これからいくらだって機会はあるだろうし、焦って傷つけるようなことはしたくないしな。
「……………」
「…………葵?」
葵はうつむいたまま黙りこんでしまった。
……俺はかける言葉が見つからなくて、動けなくなる。
お前、今、何考えてるの?
こういうとき、自分で自分が嫌になる。もっと葵の考えていることが分かってあげられたらいいのに……ちっとも分かってやれないんだ。
小さく、すんっと鼻を啜ると、葵は顔をあげて微笑んだ。
「……そうだよね。そんな気分にはなれないよね。ごめんなさい」
「……………」
「バカだよね……せっかくその気になってもらえたのに……変に疑って台無しにして……本当にバカみたい……」
無理に笑う葵の瞳からぽろりと涙がこぼれだした。
「……今度は疑うなんて、しないから……また、いつか……最後まで、抱いてくれる?」
そう言うと額を膝に押しあてて、小さくなる。
バカだなあ……本当にバカ。お前も、俺も。
もっと素直になればいいのにな。
欲しいなら欲しいって、ちゃんと言えばいいんだ。
小さくなってしくしく泣いてる葵を、できる限り優しく、包み込むように抱きしめる。
やわらかい髪に頬を押しあてると、俺のと同じシャンプーの匂いがして胸がふるえた。
本当は素直に甘えて欲しいし、わがままだって言ってくれていいんだ。
葵だってそうしたいはずなのに……できなくしているのは、俺だ。俺が大人げないからだ。
……もっと葵の気持ちが分かるようになりたい。
小さくなって震えさせてしまう前に、先回りして動いてやれるようになりたい。
そんなことを考えていると何だかやるせない気持ちになって、膝を抱えたままの葵をぎゅっと抱きしめながら、何度も何度もその髪に頬擦りした。
───本当に、こんな俺が相手でいいのか?
思わず聞いてしまいそうになるが、答えが怖くて聞けない。
「いい」と言ってもらえる自信はないし、かといって手を放してやる強さもない。
そんな中途半端な俺の気持ちが伝わっているのか、抱きしめている間も、葵はずっと身体を強張らせたまま……
どちらとも動けないまま、いたずらに時間が過ぎていった。
エアコンをつけているとはいえ今は冬だし、病み上がりの葵をいつまでも裸のままでいさせるわけにはいかない。
そろそろ何とかしなくては……と思うが、固まったままの葵を抱きしめていると怖くて動けない……動いてしまったら、そのまま心まで離れていってしまうような気がする。
かといって、ずっとこうしているわけにはいかないし…
どうしたらいいか分からず戸惑っていると、小さく静かに息を吐いた葵は、ゆっくりと俺の体に自分の体重を預けてくれた。
寄りかかってきた葵の重みが、じんわりと胸を温かくする。
……大丈夫だ。
まだちゃんと、大切なものはここにある。俺のそばにいてくれている。
「……葵…」
「……うん…」
「…お前さっきさ、『またいつか』って言っただろ?」
「……うん…」
「『いつか』ってことは、いつでもいいってことだろ?」
「………うん……待ってる…」
無理に明るい声を出したあと、「……待つのは、慣れっこだから…」と、消えそうな声でつぶやいた。
……そんなもの、慣れたりしなくていいんだよ。
「───そうか……じゃあ、今からしよう」
なるべく優しく、自然な声を意識して囁く。
……が、葵はびっくりした様子で首をこちらに向けると、大きな目をますます見開いて俺を見た。
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