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第22話
びっくりして俺を見つめる瞳はすでに真っ赤で、涙でうるんだままだった。
明日、休みで正解だったな。きっと明日の朝、葵の目は大変なことになっているに違いない。
そっと顔を近づけると、腫れた目蓋と目尻に軽いキスをする。
びくっとして目を閉じた途端、瞳にためていた涙の粒がこぼれだし……俺はその滴を、舌先で舐めた。
「……今……するの?」
「うん。今したい」
「……別に……無理しなくて、いいよ…」
「………待つのは、慣れてるからか?」
「……………うん」
そう言って目を伏せた葵は口唇をぐっと噛みしめている……どこが慣れているんだか。
「無理はしてない。さっき言ったろ?俺はお前が食べたいんだって」
「でもっ……もう……『しない』って……」
「……誤解とはいえ、お前を泣かしちまったからな……先に進むのはダメかな、と思って。でも、お前がいいって言うなら、俺は続きがしたい」
だって、ずっと欲しかったんだ。
自分で手放したくせに、失ったことを後悔ばかりしてた大切なものが、今この腕の中にあるんだ。
抱いて、抱いて、抱いて……自分のものなんだってこと、確かめたいに決まってる。
「……葵……お前も同じ気持ちだったらさ、もう一度俺にキスしろよ……そしたら、そこから仕切り直すから……」
涙で濡れたままの頬を手のひらで撫でて、葵がキスしやすいように目を閉じた。自分で作りだした暗闇の中でも、葵がもぞもぞと動いて逡巡しているのが分かる。
……本当は俺が強引に進めたってよかったのだが、ここは葵に決めてもらいたい。
引き返すのか。
先に進むのか。
いつだって俺のことを優先しようとする葵に、たまには自分の気持ちに素直になって選んでもらいたかったんだ。
見えない世界でじっと待っていると、首筋に冷たい感触がした。
思わず口唇を少し開くと、そっと柔らかいものが触れ、離れた。
───葵からのキスだ。
それは分かったけれど、あえてそのまま動かずにいる。
すると、柔らかいものは何度も何度も、俺の口唇に重なり……やがてしっとりと濡れたものが下唇を舐めた。
目を閉じたまま、さっきよりも隙間を大きくしてやると、それはおずおずと口の中に入ってくる。
控えめに動くそれに、少し強引に自分の舌をからめてやった。
「………んっ…ふぁ……んんっ……」
くちゅくちゅと聞こえる卑猥な水音に交じって、葵のかわいらしい声が聞こえる。
何度も何度も舌を絡めて吸い上げ、唾液を交換し……次第に頭の芯がぼうっとしてきた。
───気持ちいい。
キスってこんなだったかな。
昔より、はるかに気持ちがいい気がする。
口と口と、舌と舌がくっつくだけでこんなに高まるのなら、身体をつなげたらどうなるのだろう…
その疑問の答えは、この先にある。
俺はそっと葵の体を傾けると、ベットに押し倒した。
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