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第2話
いったいどのくらい悩んでいたのか。
いい加減決めないと、早く帰れた意味がなくなってしまう……だいたいここに突っ立っていたら、そのうち駅員から怪しまれるかもしれないし……不審なやつと思われるのも困る。
……よし!
それもこれも長谷川が俺をそそのかしたんだし!
俺は仕方なくそれに付き合ってるんだし!
とりあえずかけてみる。
で、ダメだったらいつものラーメン屋で、ラーメン、餃子に半チャーハン……今夜はビールもつけてやろう。
んで、帰ってさっさと寝るぞ!
そうと心が決まれば、あとは早かった。
ずっと握ったままにしていた携帯をいじって発信履歴から葵の電話番号を表示すると、一度深呼吸してから発信ボタンを押した。
携帯を耳に押し当てると、呼び出し音が聞こえ始めた……が。
………………ん?
呼び出し音は鳴り続けているのだが、葵は出ない。
ちらりと腕時計をみると、早番の日なら帰っている時間で……まあ、携帯だって万能な連絡ツールではない。気づかないことだってあるだろう。
仕方ない……あきらめるか。
電話を切って、もう一度電車に乗り直そう……そう思ってはいるが、なかなか切ることができない。
次は出るかも……次なら出るかも……
なんとなくそんな気がして切るに切れない。
……あーあ。俺も大概、しつこい男だよ。
さすがにもういいだろうと、ため息をついて携帯を耳から離す。
……残念だが仕方ない。約束があったわけじゃないんだから。
ゆっくりと指を画面に近づけたとき……
『────ガタッ……ゴトンッ!……わっ!切れたかな!?どーしよっ──もしもしっ!先輩!?』
ぷっ。
思わず吹き出してしまうほど慌てた葵の声が、聞こえてきた。
「焦んなくてもいいよ。切れてないから」
慌てて電話に出た葵がかわいくて、さっきまでうじうじ悩んでいた自分が馬鹿みたいだ。
『よかったー』と、心底ほっとしたような葵の声。
こんなに必死になって出るくらい、嬉しく思ってくれるのなら、さっさと電話すればよかったな。
「何?なかなか電話に出れないって、どこかでかけてるのか?」
『ううん、違うよ。今は家……夕飯を作るのにキッチンにいたから、着信音が聴こえなくて……』
……葵はどうしてすぐに電話をとれなかったのかの説明を一生懸命続けていたが、俺はというと、半分も話を聞いていなかった。
あー……夕飯、作ってるんだ……
じゃあ……今からメシ、誘ったってもうダメか……料理が無駄になってしまう。
今さらながら、すぐに電話をかけなかったことが悔やまれた。悩んでいる間にかけていたなら、間に合っていたかもしれない……が、こればかりは仕方ない。
今日はおとなしく帰るか……
『……で、どうしたの?急に電話してくれるなんて、めずらしいよね?』
「あー……、いや、もういい。何でもないんだ。悪いなー、忙しいとこ邪魔して」
『……え?邪魔だなんて、そんなこと…』
「また今度メールするわ。んじゃ、またな」
『えっ?まっ、せんぱ…』
葵が言葉を言い終わる前に、俺は通話終了ボタンを押した。
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