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第4話
………やっぱり泣いてるし…
耳に、すんっと小さく鼻を啜る音が聞こえる。
「…………葵…泣いてるのか…?」
『……泣いて…ない、よ……』
「いいんだよ……ごまかさなくって……俺が悪いんだから…」
『……………』
「悪かったな……いきなり電話切って……別に怒ってるわけでも、葵が何かしたわけでもないから…」
『……………本当に?怒ってない?』
「ああ、本当。だから泣くなよ…」
『………うん……泣かない……』
泣かないって言いながら、声は元気ないままで…
今すぐ会って、ぎゅうっと抱きしめてやりたい。
と、言っても葵のためというよりも自分のためだけど…
このまま電話を切ってしまえば、こんなダメ男のこと、嫌いになってしまうんじゃないか……そんな身勝手なことが不安で仕方ない。
『………会いたい……』
葵の小さな小さな声が、ポツリと聞こえた。
普段おねだりなんて絶対しない葵の、かわいらしいお願い…
「────葵?」
『………ごめんなさい……今の……聞かなかったことにして…』
聞かなかったって……んなこと、できるはずないだろ?
大切な恋人が『会いたい』って、かわいいおねだりしてくれたってのに…!
大体、俺だって同じ気持ちだっつーの。
どうしてかは知らないが、こいつは昔から我慢しすぎるところがある。
しなくてもいい我慢をすることが、相手のためになると思いこんでいるんだ。
「……葵さ…今俺にしてほしいと思ってること、全部言ってみな?」
『……………え?……してほしいこと?』
「そう」
『……全部?』
「そ、全部。俺が鈍感なの、もう分かってるだろ?言わなきゃ分からないからさ」
『……そんな……だって……』
「あのさ…お前の願い事なんて、わがままのうちにもはいんねーよ。いいから言えって。俺は言ってほしいんだよ……な?」
『……………』
「………葵?」
『…………うん……考えてみる…』
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