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第8話

風呂から上がって、タオルで頭を拭きながらキッチンに戻ると、テーブルの上にはすっかり夕飯が整えられていた。 葵に風呂をすすめられたとき、お願いの一つが「一緒に風呂に入りたい」だったことをちゃんと指摘したのだが……「こんなに一度に願いが叶ったら、僕の心臓がもたない!」とごねる葵がめちゃくちゃかわいかったので、今回は許してやることにした。 ……まあ、次にここに来るときは、絶対一緒に入るけどな。 葵がご飯をよそった茶碗を受け取ってテーブルに運ぶと、二人向かい合って座る。 「いただきます」 箸を手に取り、汁椀を左手に持つと……葵と目があった。 ……心配そうな顔。口に合うかどうか不安なんだろう。苦笑しつつ、味噌汁を一口、口にすると… 「……あ……うまい……」 続けて炒め物を食べてみるが、これも味付けがちょうどいい。魚だって焼き加減が抜群で、これまたうまい。 あれ?昔もたまにメシ作ってもらってたけど……こんなにうまかったかな…? 気づけばどんどん箸が進む。 あっという間に一膳分のご飯が空になってしまった。 「おかわりあるよ?」 「ああ、頼む」 空になった茶碗を差し出すと、嬉しそうに受け取ってご飯をよそう。 葵からおかわりをもらうと、一口食べる。ご飯の炊き加減もちょうどいいんだ。 「お前、料理作るの上手になったなー」 「そんなことないよ。毎日作ってたら慣れてきただけだと思うけど?」 「そうかなあ。俺なんか2年たっても全然作れないのに」 「だって先輩、料理しないでしょ」 「俺と料理の組み合わせは最悪だからな…」 いったい今までいくつの鍋をダメにし、何度血を見たことか… その様子を見たことのある葵は、すっかり思い出したようで苦笑している。 「……確かに、あれはちょっとね…」 「だろ?まあいいんだよ、俺が料理できなくても。お前が俺んとこ、嫁に来れば」 そうしたら問題ないだろう? 毎日うまいメシ食えて、いつもかわいく笑ってくれて、夜は俺の下で甘い声で啼いてくれて。 こんないい嫁、他にいないだろ。 そんなことを考えながら食べていたら、ふと気づいた。 「───葵?」 「……………」 葵が何にも言わず、黙り込んでいる。 不思議に思って顔をあげると… 「葵!?どうした!?」 「……………」 葵は手に箸と茶碗を持ってこちらを向いたまま、声も出さずにぽろぽろと涙をこぼしていた。

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