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第2話

じわじわと涙がにじんできて、思わずマフラーに顔をうずめる。 会いたかったなあ… 何でまっすぐ家に帰らなかったんだろ……先輩が来てくれるって分かってたなら、悠希君と別れてから、どこにも寄らずに帰ったのに… さっき駆け下りた階段を、今度はとぼとぼと重い足どりで上る。 全然大丈夫なんかじゃない… やっぱり寂しい… ドアの前にたどり着くと、もう一度袋を手にとる。 中にはプリンが入っているだけなのに……それが重くて重くて… 「──────うっ……ふぇ……」 思わずしゃがみこんでしまった… 早く家に入らないとって思うのに、力が入らなくて立ち上がれない。 プリンは確かに好きだけど、欲しいのはプリンなんかじゃない。 一人で食べたって、ちっともおいしくない。 先輩が横にいて、僕が食べるとこ、嬉しそうに見てくれるからおいしいんだ。 先輩がくれたマフラーもプリンも、先輩の存在を伝えてはくれるけれど、心のすべてを満たしてはくれない。 会いたい……会いたいよう…… 「────────葵?」 ………え? しゃがみこんでマフラーに顔をうずめていた僕は、その声が聞こえるまで、存在に気づけなかった。 びっくりして顔を上げると… 「わ!何でそんなとこで泣いてんだよ。嫌なことでもあったのか?───ほら、プリンだけじゃ寒いと思って、これ買ってきたから。食べて元気出せよ」 そう言って、コンビニの袋を差し出す。 その人は、僕が今誰よりも会いたくて、誰よりも必要としている人で… 僕は立ち上がると「肉まんとカレーまんと、どっちに…」と言いかけたその胸に、飛びこんだ。 「───わ!?どうした!?肉まん、つぶれるとこだったぞ!」 そんな苦情はお構いなしに、僕はぎゅうぎゅうとしがみついた。 「……ふぇ……先ぱ……いぃ……」 名前を呼べば、ますます感情があふれてきてしまう…… 先輩は帰ったわけじゃなかった。 もう一度この部屋に戻ってきてくれた。 ───それが嬉しくて嬉しくて涙が止まらない。 先輩はわけが分からないのか、ちょっと戸惑っているようだったけれど、優しく僕の背中を撫でてくれた。 そして、どうすればいいか分からないといった声で、僕に尋ねてきた。 「………あー…もしかして、あんまんのほうがよかったか?」 てんで見当違いの言葉に、僕は思わずふき出した後、ちょっと首を伸ばして先輩に触れるだけのキスをした。 「おまっ…!ここ、外…!!」 驚いた表情の先輩に、ふふっと笑ってこたえると、もう一度先輩の胸にぎゅっと抱きついてから、離れた。 ポケットから鍵を取り出しながら、先輩に「僕、肉まんがいい」と伝える。 すると先輩も優しい顔になって「そうか」とこたえてくれた。 悠希君とのケーキもいいけれど、やっぱり先輩と食べる肉まんには敵わないなぁ……なんてことを考えながら、僕は部屋の鍵を開けたのだった。 end

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