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告げる 第1話

「先輩、年末はどのくらいお休みがあるの?」 「んー……ちょっと待てよ…」 そう言うと先輩は、部屋の隅に置いたままだったビジネスバッグから、ごそごそと手帳を取り出した。 12月に入って忙しくしていた先輩が、合間を縫うようにして僕に会いに来てくれた今日……ずっと知りたかったけれど、訊く機会がなかったことを尋ねてみた。 大学の頃から、年末は帰省してしまう先輩。せめて1日くらい、一緒に初詣とか……行けたらいいなあと思ってるんだ。 今日だって僕の好きなもの、差し入れしてくれたし。 家にいなかった僕を、ちゃんと待っててくれたし。 だからきっと頼んだら、1日くらいだったら、僕に付き合ってくれるんじゃないかと思うんだけど… 「今年は30日から休みだな……で、4日の日曜まで休み。お前は飛び飛びで休むんだろ?」 「うん。31日が六時に閉店で1日は定休日。2日は仕事だけど、3日は休みだよ」 30日から6日間お休みか……じゃあ長く帰省するのかな。 「……先輩、いつ帰省するの?何日くらい実家にいる?」 もし、もしよければ初詣とか……って、続けるつもりで尋ねたけれど、先輩の返事の方が早かった。 「………あー、俺、帰んないよ。ずっとこっちにいるから」 「え!?何で!?家族が待ってるんじゃないの?」 思ってもいなかった言葉に、思わず声が大きくなってしまった。 ………だって、年末年始だし。僕と違ってまとまった休みがとれるのに… 「そんなに驚かなくても……今年の正月だって帰ってないし。正確に言うと、盆休みもゴールデンウィークも帰ってないぞ。もう2年近くになるかな」 「……………」 2年近く家族に会っていない……そんな話をしているのに先輩は平気な顔。 ……そんなもの、なのかな……僕の家族は仲が良くてしょっちゅう集まっているから、違和感を感じちゃうのかな…? まあ、恋人──って言っていいのか、自信はないけど──だからといって、家族の問題に口を出すのは控えたほうがいいのかもしれない。 でも、なんだか胸にもやもやしたものがあって……なんだろう……何がひっかかっているのだろう…… しばらく考えて……あっ、と思い当たるものが分かった。 「先輩、さっき『2年近く』って言ったよね?帰省しなくなってから」 「ああ。そんくらい経つかな」 「2年っていったらちょうど、僕と離れていた期間とあうよね?」 「………ああ」 「もしかして……帰省しなくなった原因に、僕は関係してる?」 ───2年前は僕たち、すれ違って離れ離れだった。 そのことと帰省しなくなったことと、関連があるようには思えないけれど……時期が重なっているのはなんとなく気になって…… すると先輩は、正面に座っていた僕の手をぎゅっと掴んで言った。 「───お前、本当にそれ、知りたいのか?」 「………え?」 「関係してるってなったら、変に気に病んで、また俺の前からいなくなるんじゃないか?身を引こうとか、見当違いのこと考えるんじゃないか?だったら俺、絶対に話したりしないからな」 ───あんな思いはもうこりごりだ……そう、先輩はつぶやいた。 家族の話をしていたときはあんなに平然としていたのに、今度は何だか苦しそうな顔で…… それがなぜか『先輩は僕を必要としているという証』に思えて…… 「………いなくなったりしないよ。話を聞いても聞かなくても、僕は先輩と一緒にいる」 先輩に僕の気持ち、ちゃんと伝わるように告げた。 そうか……と小さくつぶやくと、先輩は顔を上げて……僕の目をしっかりと見つめて言った。 「───実は2年前に帰省したとき……俺、家族みんなに『カミングアウト』したんだ」

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