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第5話
僕の涙がおさまるまで、先輩はぎゅっと抱きしめていてくれた。
先輩の腕の中はぽかぽかしていてあったかくて……何だか勇気も出てくるようで……
「………先輩……」
「………ん?」
「僕もちゃんと話したい……僕たちのこと……自分の言葉で家族に伝えたいんだ……」
「……大丈夫か?体調よくないんだろ?別に今じゃなくたって…」
「ううん……大丈夫……でも、できたら話してる間……横にいてもらってもいい?」
もう、家族みんな僕たちのこと知っているのかもしれないけれど……やっぱり反応は怖い。
だけどもし、先輩が横にいてくれるんだったら……ちゃんと向き合えると思うんだ。
───先輩は僕の頬をもう一度撫でると、僕が立つのに手を貸してくれた。
和室からリビングに入るドアを開けると、母さんはソファに腰かけて、静かに僕を待っていた。
横には藤姉と…
「……あれ……桐姉も来てたの?」
もう一人の姉も一緒に座っていた。さっきまではいなかったはずなのに…
「今着いたとこだよ。藤が暴走して葵が倒れたって聞いたらね……家のことは旦那に任せてきちゃった」
桐姉は去年結婚したばかりでまだ新婚さんなんだ。旦那さんにまで迷惑かけちゃったみたいで申し訳ないなぁ……
「───気にしなくたっていいの!あの人料理するの、趣味みたいなものだから。今頃喜んで台所に立ってるはず。それより、葵……こっちに座って、ちゃんと話しよ?──田中さんもよかったら一緒に」
落ちこんで見えたようで、桐姉は明るく僕を励ましてくれた。こういうところって、小さいころから変わらない。
僕たちはうながされるままに母さんの向かい側に並んで座った。
座るとすぐに藤姉がテーブルにコーヒーと僕が買ってきたケーキを並べて、小さな声で「大騒ぎして、ごめんね」と謝った。
はっとして顔を見ると、いつもは強気な藤姉がしゅんとした顔……きっと二人に怒られたんだろうな……僕はふるふると首を振って、平気だと伝えた。
小さく深呼吸をする。覚悟を決めたとはいえ、やっぱり緊張してしまって…
すると、横に座っていた先輩が、そって手を握ってくれた。
その手のひらからじんわりと、力が流れ込んでくるようで……僕は口を開いた。
「───みんなはいつから僕たちのこと、気がついてたの?」
ずっと、秘密にしているつもりだったのに、さっきの藤姉の話しぶりでは、みんな僕たちの関係を知っているようだった。それが何より不思議で…
すると三人はお互いに顔を見合わせて……で、桐姉がそれに答えた。
「……いつからって……最初から?」
「──────はい?」
「だって葵、分かりやすいんだもん。大学に入ってすぐに出会ったんでしょ?いつも口を開けば『先輩』『先輩』って同じ人の話してるし…」
「そうそう!そのうち何だか考え込んでることが多くなったし、先輩クンの話をふると顔真っ赤にしちゃうし……これは間違いなく『恋』だな、ってねー」
ええええええええ!!!
二人の姉は楽しそうに僕の昔の話をしているんだけど、話のネタになってる僕は恥ずかしくって!
だってそんなの、どれだけ先輩のことが好きだったのか、みんなにばればれだったってことだし!
……で、気づいた。
そういえば、横に先輩もいるんだった!僕の恥ずかしい過去を知られちゃう!!
「だ、だめっ!先輩は耳塞いでてっ!この話は聞いちゃだめー!」
慌てて横に座る先輩のほうを向いて、手を伸ばした。耳を塞いでしまおうとしたんだけど、先輩の手が僕の手首を掴んで止めた。
「なんでだよっ。俺も聞きたいしっ」
「やだ!はずかしいんだもんっ」
「いいだろ、本当の話なんだから」
「本当だからいやなのっ。もー、耳塞いでてよ!」
そんなこんなで、二人で大騒ぎをしていたら…
「───我が弟ながら、このイチャイチャっぷりはあんまりよねー……」
「絶対こっちのことは忘れてるわー……あんなに心配してあげたのに……」
「まさか葵が目の前で惚気る日が来るなんて……母は複雑だわ……」
三人の呆れた声が聞こえてきて、僕たち二人は固まってしまった。で……
「………すみませんでした……」
二人仲良く?謝ることになってしまったのだった…
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