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第6話

「………あの……続きをどうぞ」 大騒ぎをした僕と先輩もようやく落ち着いて、改めて座り直すと話を続けてもらった。 「もうイチャついて話を止めるのはなしだからね……まあ、葵は男の子だし、話に出てくる先輩もどう考えても男だし……もしかしたら、うまくはいかないかもしれないねって言ってたんだけど…」 「そうそう。でもそのうち、葵はしょっちゅう先輩クンの家にお泊りするようになったし、携帯見ては幸せそうににこにこしてるし……これはうまくいったのかなーって三人で話してたのよね」 ───そ、そんなこと考えてたんだ……女の人ってするどい…… 「就職するから家を出るって言い出したときだって、『きっと先輩クンと同棲するんだわー』って私たちは盛り上がってたんだけどね…」 「でも、引っ越しを手伝ってみたら一人暮らしだったし……だんだん葵は『先輩クン』の話もしなくなって、携帯見るときも泣きそうな顔してて……うまくいってないのは何となく分かってたけれど、かといって付き合ってることは知らないふりをしてきちゃったから、今さらその話をするわけにもいかなくて……」 「だから、今回葵が改まって話をしに来るって聞いたから、きっと『先輩クン』とのことだろうって……いい話だとしても悪い話だとしても、いよいよ私たちにも何かできることが……って思ってたんだけどね」 「藤が暴走しちゃったのよねー……まあ、そのおかげで噂の『先輩クン』とも会えて話もできて、一体何があったのかも分かったからいいけど」 そう言って、三人は顔を見合わせて嬉しそうに笑った。 「………先輩、一体どんな話したの?」 「どんなって……まあ、あった出来事を、あった通りに話しただけだけど……って言うかお前さ、俺たちのこと、自分の言葉で言うんじゃなかったのか?今のところ三人が話してるの聞いてるだけになってるけど?」 ……あ。ホントだ。 うちの家族はとってもおしゃべりだから、気を抜いちゃうと僕、何も話せなくなるんだよね。 もう一度座り直して、先輩の手をぎゅっと掴む。 よし、大丈夫。 「母さん。桐姉に藤姉。今まで心配かけてごめんなさい。僕、先輩……じゃなくて、田中雅行さんと大学生のときから付き合ってます。いろいろなことがあったけれど、僕はやっぱり彼が好きなんです。男同士で付き合ってて、世間的には批判されるかもしれないし……みんなに迷惑かけるかもしれないけれど……」 ……僕だってもう社会人だし……社会は異質なものに優しくないことだって知ってる。 そのことでいつか、僕の大切な家族が後ろ指をさされることになるかもしれない……それでも…… 先輩はつないだままだった僕の手をぎゅっと握ってくれた。 ───頑張れって、先輩の声が聞こえるような気がした。 「僕はずっと彼と一緒にいたいんです。だから、僕たちが付き合うことを認めてください───お願いします!」 言い終わると同時に、僕は頭を下げた。どうしても認めてほしかったから、自然と頭が下がっていたんだ。 ……ふと気づくと、横に座っていた先輩も僕と一緒に頭を下げてくれていた。 驚いて下を向いたまま先輩も見ると、先輩も僕を見てにっと笑った。 その笑顔がかっこよすぎて……僕はじわじわと涙が出てきてしまった。

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