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第7話
どのくらいそうしていたのかな…
「……葵。田中さん。もういいわ。頭を上げてください」
母さんの声に、二人一緒に頭を上げた。
僕たちを見ている三人の顔は、僕が都合よく考えているのかな……とっても優しかった。
「さっきもお話したけれど……私たち葵には隠してはいたけれど、最初から二人のことは気づいていたし、葵が幸せだったらそれでいいと思ってるのよ」
「あたしも桐姉もとっくに結婚してるし、どっちの旦那も葵が男の人とお付き合いしてるからって別れるような器の小さいヤツじゃないよ」
「───でも!そんな簡単なことじゃないと思うんだけど!……一生結婚はしないし、僕は子どもなんて産めないし……母さん、孫の顔とか見たいんじゃないの…?」
僕、女の子じゃないから、いくら先輩と体を重ねたって、何も残せやしないんだ…
光と薫が生まれたとき、母さんはとっても嬉しそうだったから……僕の子どもだって見たいんじゃないの?
「そりゃあ孫はかわいいけれど……光と薫がいつも遊びに来てくれるから私は満足しているし……それに、葵のおかげでこんなかっこいい息子が一人増えたじゃない」
見てると目の保養だわ、何て言って母さんは楽しそうに笑った。
ちらりと先輩を見ると、何だか微妙な表情をしていて……それが今度はかわいく見えて、僕は思わず笑いながらも、またもやじわじわと涙が出てきてしまった。
それから光と薫も入れた7人で一緒にケーキを食べ、さすがに遅くなったので夕飯は遠慮して、二人一緒に家を出た。
駅までの道を並んで歩きながら不思議な気分になっていた。
来るときには一人で、不安に襲われながら歩いていたのに、帰りは二人で、すごくほっとした気持ちで歩いている。
「………先輩」
「ん?」
「今日は来てくれて、ありがと…」
「ん」
「起きたとき、いてくれて……話をしてるとき、手を繋いでいてくれて……すごく嬉しかった」
「ん」
「あのね………やっぱり……僕……先輩が好きだよ……」
「ん……………俺も」
好きって言ったら、ちゃんと「俺も」って返事が返ってきた。それだけで、なんだか幸せだ。
にこにこしてたら、先輩がにやりと意味深な笑顔を浮かべた。
「……なあ、お前そういえばさ……結構大胆なこと、告白してたなー」
「へ?大胆?……何のこと?」
「だってさ…母親に『僕、子どもは産めない』って言っただろ?『もてない』とか『見せられない』じゃなくて『産めない』って。それってつまり、セックスするときは自分が俺のを受け入れてますって、言ってるようなものじゃないか?」
「───は!?何それ!そんなこと言ってないもん!」
「いやいやー。間違いなく言ってたって……俺、ちょっとムラっとしたし」
「何それ!?だから、そんなこと絶対言ってないから!」
「ふーん、とぼけるか………そっかーなるほど、つまり無意識にあんな告白してたのかー」
「ちょっ!……もう、何でそんなこと言うの!?んじゃ、もう二度と先輩とはしない!」
「へ?あ、いや、それは困るよ!今日だってする気まんまんだし!」
「はあ?僕、明日仕事だよ!?ぜーっっったい、しないから!!」
「そんなー!!葵ー、悪かったよー!もう言わないから、それだけは許してっ!」
「もー!知らない!!」
恥ずかしいことを言い合いになって真っ赤になった顔を見られたくないから、僕は速足で歩きだした。
そんな僕のあとを慌てて追いかけてくる先輩は、何だか子どもみたいだった……おねだりしていることは、とても子どものするものではなかったけれど。
……ちなみに、先輩のおねだりに弱い僕は、何だかんだと言っても結局折れちゃうんだけれどね。
end
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