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ジングルベる 第1話

『えっ!クリスマスは田中さんと一緒じゃないの!?』 携帯電話越しに聞こえるのは、悠希君の驚きの声。 それは突然大きく響いて、あわてて耳を離すくらいだった。 「うん」 『なんで!?ケンカとかしてるの!?』 「そんなことないよ。ちゃんとうまくいってる……と思う」 『じゃあ、なんで!?』 「『なんで』って……だって僕たち、僕が社会人になってからは、一度も一緒にクリスマスを過ごしたことなんてないよ?」 『…………っ!…』 はっと息をのむ音がして、悠希君は何にも言えなくなったみたい……それが何だか申し訳なくて、僕の胸も少し痛んだ。 僕の職場で悠希君と再会し、仲良くなってから初めての電話の内容は「一緒にクリスマスプレゼントを買いに行きませんか」というお誘いだった。 誘われたのは嬉しかったんだけれど、恋人のためにプレゼントを買いに行くのはお断りした。 だって先輩と僕は、クリスマスは別々に過ごす予定だから。別々だから、プレゼントを贈ることはないし、贈らないから用意する必要もないんだ。 ……でもそれが、悠希君を驚かせてしまったみたい。 『……ねえ、葵君』 「ん?」 『葵君は、本当にそれでいいの?』 「……え?どうして?」 『だって……せっかくのクリスマスだよ?本当は田中さんと一緒に過ごしたいんじゃないの?』 「………大丈夫だよ。だって、今までもそうだったし……それにどうせクリスマスもイブの日も、僕は仕事だしね」 何だか悠希君の声がひどく落ち込んでいるように聞こえて……自分のことのように悲しんでいるようで……申し訳ないなあ…… 僕たち、一人で過ごすクリスマスには慣れてるんだよって分かってくれたら、心配する必要はないって思うんだろうけど…… 「プレゼントは買わないけれど、一緒に選ぶことはできるから。買い物には行こうよ。で、帰りにおいしいケーキ食べよ?」 『………うん』 ケーキのお誘いをして場を盛り上げようと思ったんだけれど、悠希君の声はまだ沈んだまま…… そんな悠希君を励ますには、どんなケーキがいいかな…… 僕は携帯電話を耳に当てたまま、カフェの特集をしている情報誌のページをめくりはじめた。

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