109 / 243

第2話

「はぁ!?クリスマスに葵君と会わないだとぉ!?」 テーブルの向こう側から聞こえるのは、長谷川の怒りの声。 それは狭い食堂の中に大きく響いて、あわてて耳をふさぐくらいだった。 「ああ」 「なんで!?またお前、ケンカしてんのか!?」 「ちげーよ!ちゃんとうまくいってる……と思う」 「じゃあ、なんで!?」 「『なんで』って……だって俺たち、葵が社会人になってからは、一度も一緒にクリスマスを過ごしたことなんてないし」 「……………」 あんぐりと口を開けて、長谷川は何にも言えなくなったようだ……それが何だか見ていられなくて、食べかけの親子丼をごまかすように、箸でぐりぐりと混ぜた。 昼食を食べるため会社を出てから馴染みの食堂に入り、注文をしたところで長谷川がはじめた話の内容は「今年は何をクリスマスプレゼントとして、恋人に贈るつもりなのか」という質問だった。 何をあげるか悩んでいるようで、頼りにされたのは……まあ、ちょっと嬉しかったんだけれど、プレゼントの相談にはのれそうもない。 なぜなら俺と葵は、クリスマスは別々に過ごす予定だから。別々だから、プレゼントを贈ることはないし、贈らないから何を贈るか考える必要もないんだ。 ……でもそれが、長谷川を驚かせてしまったようだ。 「……なあ、田中」 「ん?」 「お前は、本当にそれでいいの?」 「……は?どうして?」 「だって……せっかくのクリスマスだろ?本当は葵君と一緒に過ごしたいんじゃねーの?」 「………平気だ。今までもそうだったし…どうせクリスマスもイブの日も、葵は仕事だしな」 何だか長谷川の声がひどく申し訳なさそうに聞こえて……まずい話題をふってしまったと思っているようで……何だかかえって申し訳ない…… 俺たち、一人で過ごすクリスマスには慣れてるんだって分かってくれたら、気にする必要はないって思うんだろうが…… 「プレゼントは買わないけれど、一緒に考えることぐらいはできるからさ。ネットで調べてみるか。まだ、休憩時間は残ってるし」 「………ああ」 高瀬君に贈るプレゼントの話をして、俺の話題から離れようと思ったんだけれど、長谷川の声はまだ納得できないといった声色のまま…… さて、高瀬君を喜ばせるには、どんなプレゼントがいいのか…… 俺は親子丼を口の中にかきこみながら、大学生が喜びそうなものについて考えはじめた。

ともだちにシェアしよう!