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第9話

葵のアパートにつくと、ちゃんと明かりがついていてほっとした。 ……なんだ。いるんじゃねーか。 何度かけても電話に出ないし、何かあったのかと心配していたんだが。 でもよかった……ちゃんと家に帰ってるようだ。 階段を上がって、インターホンを鳴らす。 ───────ピーンポーン……… 「……………あれ?」 …………出ない。 ───────ピーンポーン……… 「……………………」 …………出ない! 何でだよっ。電気ついてんのに! もしかして、風呂か?もう、寝てるとか? 電話は出ないし、ドアも開かない。 この寒空の下、打つ手のない俺……これって、あきらめて帰るしかないのか? ここまで来たのに、俺、葵に会えねーの!? 一人玄関ドアの前であわてていると、扉の向こう側からぱたぱたと足音がした。 もう、聞き分けられる……葵の足音だ。 ほっとしてドアが開くのを待っていると、鍵を開ける音がした。 ───やれやれ。 さあ、部屋に入れるぞと、手にしていた鞄とレジ袋を持ち直すと、がちゃっとドアが大きく開いた。 ドアの向こう側に立つ葵は、今帰ったばかりなのか?部屋着ではなかった。 身体がふらふらと揺れていて、目も何だかとろっとしている。顔もほんのり……というか、だいぶ赤い。 「…………葵?だいじょ…」 様子がおかしくて、心配になって、挨拶もなしで声をかけようとしたところで、何も言えなくなった。 「…………すごい……サンタさん……いた………」 ようやく俺に気づいた葵が、もともと大きい目をさらに大きく見開いて、びっくりした顔でこっちを見ていたから。 「は?……サンタ?───うわっ!」 訳がわからなくて、きょとんとしている俺のことはお構いなしに───葵は俺の胸に飛び込んできた! 「おいっ、お前…どーした!?」 俺の胸にぺったりとくっつく葵……まあ、俺もまんざらじゃないし。 こっちからもぎゅっと抱きしめ返すと……あれ? 「何?お前、めずらしく飲んでんの?」 腕の中の葵の身体から、ほんのりアルコールの匂いがした。 「ふふー……らって……サンタさん……クリスマしゅ……」 は?「クリスマス」って言えてないしっ。どんだけ酔ってんだよ! 「……プレゼン……ト……」 「…………………葵?」 「…………………すぅ…すぅ…」 ───寝てる。 マジかっ!せっかく来たのに、寝るのか、お前! ガックリした……けれど、俺の体にもたれて気持ち良さそうに寝ている葵を見てると、何だか腹をたてるのもバカらしくて…… 「………よいしょっ、と…」 手にした荷物ごと葵を抱き抱えると、靴を脱いで部屋に入った。

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