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第10話
……あれ?ここ、どこだろう?
今年はまだ雪なんて降ってないのに、辺り一面銀世界。見たこともない森の中に、僕は一人で立っていた。
目の前の木はどれも真っ白な雪が積もっていて、まるでお化粧をしているみたい。
天気予報も晴れって言ってた気がするんだけど……いつ雪が降ったのかな?
でも、不思議だ。
こんなに雪に囲まれているのに、ちっとも寒くない……結構薄着をしているのに、何でだろう。
むしろちょっとポカポカしている感じがする。
キョロキョロと辺りをうかがうと……
「わっ!」
知らない間に僕の後ろに人が立っていた。
どきどきする胸を押さえながらその人を見てみると……赤い服に赤い帽子。真っ白なひげのおじいさん。これって……
「………え?……サンタさん?」
僕の問いかけに返事は返ってこないが、サンタさんはにっこりと微笑んだから、間違いないんだと思う。
一歩、僕の前に近づいたかと思うと、何かとっても光るものを僕に手渡した。
『メリークリスマス!』
その一言を聞いた瞬間、手の中に渡されたものがぽうっと輝きを増した。
「───わっ!」
眩しいくらいの光。思わずぎゅっと目をつぶった。
目の奥がチカチカ……青や緑や紫に白の光の残像が飛び交っている。
───その光の渦がおさまって、そうっと目を開けると……
「───葵?目、覚めたか?」
目の前には先輩の顔があった。
「…………あれ?サンタさんは?」
「は?寝惚けてるぞ、お前。サンタって……子どもじゃないんだから」
苦笑しながら先輩は、腕の中にいる僕を抱き直した……って、あれ?
気づいたら僕は温かい毛布に包まれたまま、横向きの姿勢で先輩に抱っこされていた。
着替えた記憶もないのに、部屋着になっていて……もしかして、着替えも手伝ってもらったのかな?
「………先輩、いつ来たの?」
って言うか、どうやって部屋に入ったの?
先輩が家にきた記憶が全くないんだけど……でも、先輩も部屋着に着替えてる……いつの間に……?
「お前、何にも覚えてないのか?あいかわらず酒に弱いのな」
そう言ってちらりと目をやった先輩の視線の先には……僕が飲んだまま置きっぱなしのビールの缶。
先輩の腕の中で見るサンタは、さっきの顔と違って優しい笑顔に見えた。
「あ……ごめんなさい。勝手にビール、飲んじゃった」
「ああ、別にいいよそんなの。また買えばいいし」
そう言った先輩の顔は、さっき夢の中で見たサンタさんみたいに優しくて……涙が出そうになって、ごまかすように、また抱きついた。
「何だよ、ホント子どもみたいだな」
「……うー……だって……」
「だって?」
「……だって……先輩に会えて嬉しいんだもん……」
「………………」
先輩は何にも言わなかった。
言わなかったけれど、おんなじ気持ちでいてくれたんだと思う。
だって、さっきよりぎゅっと……僕を抱きしめてくれたから。
……何だろう。すごいんだ。
再会する前は、僕の世界に色はなくて……楽しいことも素敵なことも、僕には何一つ関係なかった。
クリスマスだって、僕以外のみんなが幸せを味わう日だったはずなのに……
今こうして先輩は僕の側にいてくれて、ぎゅっと抱きしめてくれている……そのおかげで今日は僕も、みんなと同じ幸せの輪の中に入れてもらえてる。
クリスマスがこんなに嬉しかったの、久しぶりで……すごい。
すごい幸せだ。
あたたかい先輩の胸にぐりぐりとおでこを押しあてていたら……
─────────ぐぅー……
「…………………」
「…………………」
「…………わりぃ。夕飯、まだだったわ」
先輩のお腹の音にも何だか幸せを感じて、思わず笑顔になってしまう。
クリスマスディナーにはほど遠いけど、何か作ってあげたくて、僕は立ち上がったのだった。
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