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第11話

テーブルの上に並んだのは、ほわほわと湯気のでている月見うどん2つ。 チキンもなければオードブルもない、クリスマスイブの食卓。 他人から見れば、こんな夜に物足りないと思われるかもしれないけれど、それでも俺にとってはごちそうだ。 まあ、つまり……葵が作ってくれたものなら何だっていいのだ。要するに。うん。 だいたい今夜はもともと、一人でコンビニ弁当を食べる予定だったのに。それが今はテーブルの向こう側で、嬉しそうな顔の恋人が自分とおんなじもの食べてんだ。 ……これが幸せじゃないなら、何が幸せなんだっていうんだ? 「先輩、おうどんで足りる?おにぎりか何か、作ろうか?」 「ん?いいよ別に、これで充分。うまいし」 「ほんと?なら、良かった……でも、ケーキぐらいは準備すればよかったね……せっかくクリスマスイブなのに……」 ……ケーキ? ケーキ……といえば。 「あるぞ、ケーキ。冷蔵庫の中」 「え?何で?……先輩が買ってきたの?」 きょとんとした葵の顔……まあ、これまでケーキなんて買ってきたことなかったから、ぴんとこないのも仕方がないか…… 「おう。まあ、買ったとはいってもコンビニのケーキだけどな」 洋菓子店で買ったわけでもないし、味はたいしたことないかも知れねーけど。 でも、そんなのは葵には関係がないようで。 こっちが驚くくらい、きらきらとした嬉しそうな笑顔……と思ったら、今度は困った顔で手元のうどんと冷蔵庫とを交互に見る。 ちらちら……ちらちら…… 「………ケーキ、食べていいんだぞ。残りのうどんは俺が食べるし」 「っ!………いいの?」 「いいよ、もちろん。とりにいけよ」 「うん!」 あーあー、コンビニのケーキぐらいで嬉しそうな顔しちゃってさ……ホント、かわいいヤツ。 冷蔵庫を開けて、手のひらにのるくらいの小さなケースを取り出すと、大事そうに運んでくる。 そんな姿がまた、かわいく見えるからしょうがない。 で、そのコンビニケーキを見て思い出した。 ……そういえば、アレもあるんだった。

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