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第2話
「内村さん、チョコ作るんですか?」
レジで僕が渡したレシピ本のバーコードをスキャンしながら、バイトの三枝君が尋ねてきた。
高橋さんに励まされて、結局先輩にチョコを作ることにした僕は、仕事が終わると早速料理本を購入することにした。家にはいろいろな料理本があるけれど、チョコの作り方の載った本は持っていなかったから。
いつもだったら社員割引で買うところだけど、今回は定価で購入。何となくだけど……先輩のためのチョコのレシピを、割引で買うのに違和感があって……で、普通にレジに並んだら、レジ係が三枝君だったのだ。
「うん……せっかくだから、作ってみようと思って」
……恋人のために、というのは言わないでおく。
「へー……料理とかするんですね。じゃあ、俺の分も作ってくださいよ」
「三枝君、甘いものとか好きなの?」
チョコを催促されて、何だか意外な感じがした。彼は甘いものなんて好きじゃないイメージだったから。
一緒に休憩に入ったときもコーヒーを飲んでばかりで、置かれているお菓子に手を付けているところなんて見たことない気がするんだけど…
「……いや、あんまり好きじゃないですけど…」
「何それっ。好きじゃないのに、欲しがるなんて変だよ」
「……………」
「たくさん作って余ったら、みんなの分を持ってくるから。そのときは、三枝君も食べてみてね。じゃあ、お疲れ様!」
「………お疲れ様です」
店のロゴの入った紙袋に包装された本を受け取ると、挨拶をして店を出る。
早く隣の雑貨店でチョコの材料を買いたくて、三枝君との会話のことは、正直気にも留めていなかった。
次の日は、たまたま僕はお休みの日で。
前の日に高橋さんと相談しながらあれこれと買ったあと、購入した材料や道具をこっそりバッグに隠したまま先輩の家を訪ねた僕は、そのままお泊りをしてから自宅に帰った。
家に着いてからはいつものように掃除をして……洗濯をして……ようやく片付いたところでキッチンへと向かう。
買ってきたレシピ本を開くとテーブルに置いて、作り方を確認する。
今回作るのは、まずはトリュフチョコレート……大人向けだから少しコアントローを入れるつもり。
それから、ガナッシュ入りのチョコレート。こちらは生クリームにストロベリーピュレを入れてガナッシュを作る。
このチョコレートには転写シートを使って、表面に柄をつける予定。
これは高橋さんのおすすめの商品で、チョコレートの表面におしゃれな柄をプリントできるんだって。上手にできれば、お店で買ったように見えるそう……こんなものがあるなんて、ちっとも知らなかった。
チョコを刻んで…
湯せんで溶かして…
生クリームを火にかけて…
夢中になって調理をしているうちに、だんだんと形になっていく。
……先輩、喜んでくれるかな…
……おいしいって、言ってくれるかな…
トリュフチョコはころころと丸めて、ココアパウダーをまぶす。
ガナッシュ入りのチョコは冷やしてから包丁でカット。溶かしたチョコの中にくぐらせてから、シートを乗せて柄を転写する。
「───できた」
皿の上に並んだチョコの中から一つとって、口に運ぶと……トリュフチョコは口の中でとろりと溶け、なめらかに仕上がっていた。
……よかった。それなりに美味しくできた。
何とか納得できる味に仕上がって、思わず笑みがこぼれてしまった。
完成したチョコの中から形のいいものをより分けて、箱に入れていく。
ラッピング用品は本当にいっぱいあって!どれにするか選ぶのはとっても大変だった。
でも、やっぱり照れ屋の先輩にはあんまり派手じゃないものがいいのかも……と、思って。
深みのある青色の箱に、金のふちどりのついた光沢のある白いリボンを選んだ。
高橋さんが言うには、この青は「ロイヤルブルー」っていうのだそう…
箱の中にはちょうど9つのチョコが収まった。ふたをしてリボンをかけ、結ぶと……完成。
テーブルの上にのったチョコの箱は、自分で想像していたよりもずっとキラキラして見える。
これならきっと、先輩も喜んでくれるよね!
職場に持っていくチョコを入れようと、棚から保存容器を取り出しながらも、明日が楽しみでわくわくする気持ちが止まらなかった。
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