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第6話

3分経って、ぺりりとふたを剥がしてから箸を手にしたところで「……そういえば」と先輩が話し始めた。 「いつもなら長谷川のやつ、いかにも重そうな本命チョコは受け取らないのにさ……今年は全部もらってたんだよな」 「え?どうしてだろ。悠希君がいるのに…」 「何でも、高瀬君が甘いもの好きだから、もらったチョコを食べさせるんだってさ」 「………そうなんだ……でも今、『本命チョコ』って言わなかった?」 自分の恋人が他の人からもらった本命チョコを食べる……って、いくら甘いものが好きでも、嬉しくないんじゃないのかな…? 少なくとも僕は、いい気持ちはしないけれど…… 「ああ……こんな安いチョコじゃなくてさ、高そーな箱に入ったやつ。やっぱり、そんなチョコもらっても嬉しくないよな?───あいつ、要領がいいようで意外と抜けてるんだよな。高瀬君のことに関してはさ」 僕は出来上がったラーメンを口に運びながら、悠希君のことを考えた。 ……もし、さっき先輩が口に入れてくれたチョコが、他の人からもらった、気持ちのぎっしり詰まったチョコだったとしたら……あんなにおいしくは食べられなかっただろう。 いや、食べたいなんてこと自体、思わなかっただろう。 悠希君も、同じ気持ちになってるんじゃないかな…… 「───僕、あとで電話する」 口に入れていた麺を飲み込んだあと、先輩にそう言うと、まるでよしよしとするように頭を撫でてくれた。 本当に悲しい気持ちになっているのはきっと、僕ではないんだけれど、ね。 「まあ、大丈夫だろ。あの二人のことだし。心配しないで、まずは食べな?」 「……うん」 確かに心配してもしょうがない。長谷川さんは悠希君のこと、大切に思っているし……きっと何とかしてくれるだろう。 僕は悩むのはやめて、また箸を動かした。 「大体バレンタインなんて、菓子メーカーが作ったイベントなんだから。そんなことで、あの二人がぎくしゃくするなんてこと、ないだろ」 「……………」 「チョコをあげて告白するなんてのも、日本人が考え出したことだっていうしな。みんな世間の盛り上がりと企業の戦略に踊らされてるようなもんだから、別に乗っかる必要なんてないんだ」 「……………」 「会社でまで、チョコのやり取り……相手に気を遣って……って、本当にめんどくさい。バレンタインデーなんて、なくなりゃーいいのにな」 「……………そうだね」 ───先輩の話を聞きながらカップ麺を口に運んではいたけれど……どんな味がしているのか、正直全く分からなかった。

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