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第8話

───多分、すごーく間抜けな顔をしていたと思う。 ぽかーんと口を開けて……ドアを開けたまま固まって…… 「……………よう」 ダウンジャケットを着て、腕組みをしながら寒そうに身体を縮めて、先輩はドアの前に立っていた。 ……何で? ……何でここにいるの? だって、日曜の朝だよ? 街はまだ眠ったままで……誰も動き出してなんかいないよ? 何でこんな時間にここにいるの? 「お前、何なの?」 動けない僕にしびれを切らしたのか、先輩が口を開いた。 ……僕を非難する言葉……先輩はここまで、僕を叱りに来たんだ… 思わず目線を下にそらしてしまう。 「黙って帰るし」 「……………」 「電話してもでねーし」 「……………」 「チョコとか置いていくし」 「……………」 「あれ、バレンタインだから用意したんだろ?」 「……………」 ───怖い。 怖くて怖くて仕方なくて……返事ができないでいたら、「……はぁ…」と先輩のため息が聞こえた。 ダメだ……やっぱり、嫌われたんだ…… ぎゅうっとマフラーを握るけれど、効果なんてあるわけない。 先輩に嫌われたのなら、このマフラーはもう、ただのマフラーだもん……涙が出そう…… 俯いて涙を我慢していた僕の胸に、先輩が「ほらっ」と何かを押し付けた。 「─────えっ?」 びっくりしながら思わず受け取ると、それは大きめのコンビニの袋で。 「あんなふうに置いていかれたらさ、礼も言えないだろ!」 先輩は顔を赤くしながら言った。 ………僕のこと、怒ってないの? 渡された袋を覗くと、中にはきれいにラッピングされた箱がたくさん。 「……まさか、チョコくれるなんて思ってもなかったから……それは、俺からの分。あわててコンビニで買ってきた……悪いな、こんなんで…」 「………こんなに、いっぱい…?」 「昨日の夜、棚に残ってたバレンタイン用のやつ、全部買った──って、恥ずかしかったんだからな!」 そう言った先輩の顔はさらに赤くなっていて…… 恥ずかしそうにしながら、チョコを買う姿が目に浮かんで…… ぐぅっと胸が苦しくなって……我慢ができなくなった僕は、思わず先輩に抱きついた。

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