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第8話
「……それって本当に、僕たちも一緒に行っていいの?」
夕食……いや、時間的には夜食?に出した蕎麦を食べながら旅行の計画を話してくれた啓吾さんに、思わず尋ねてしまった。
返事に困ったのか、啓吾さんは苦笑い。それもそのはず。
……だって僕たち、邪魔だよね。
まだ仕事の忙しい時期は続いているみたいで、3月のはじめの頃は会いに来ないつもりでいたのだけれど、啓吾さんが僕に会うと『癒される』って……『明日もがんばれそう』って言ってくれたから……だから、啓吾さんのために僕ができることをしよう!って、最近はよく夕食を作りに来てる。
今夜も帰ってきた啓吾さんとリクエストされていたお蕎麦を食べていたら、4人で旅行に行く計画を聞かされたんだ。
「葵君、田中さんに『一緒にいたい』って言えなかったって、落ち込んでたんだよ。やっぱりせっかくのお休みなんだから、二人きりがいいんじゃないのかな…」
「うーん……俺もそう言ったんだけど、車がないだの、葵君と悠希が仲がいいからだの、あーだこーだ言ってまあ、結局のところ不安なんだろ」
「………不安?」
「あいつ、自分は気がきかないって思ってるからな。旅行中に葵君とうまくいかなくなったら、俺たちに何とかしてもらおうって思ってるんじゃないか?」
「何とかって……せっかく旅行に行くのに、そんな心配する?」
葵君、絶対喜ぶのに……
大体どんなプランであっても、どんなハプニングがあっても、葵君ならきっとにこにこして怒ったりすねたりせずに喜んでくれると思うんだけどなあ……
「まあ、あの二人のことだ。どうせ二人ともお互いにベタ惚れなんだし、揉めたとしたってどうとでもなるさ。大体、宿は全部離れになってて、泊まる離れも3部屋に分かれてるって話だったから、宿につけばそれぞれ自由に過ごすから平気じゃないかな」
「へー……」
全部が離れになった温泉旅館……一泊二日二食付き………って。
ん?あれ?
「………啓吾さん、そこって1泊いくら位かかるの?僕のバイト代で足りるかな!?」
コンビニのバイトでもらえるお金なんて限度があるし……って、旅行まであと1ヶ月しかない!
僕、そんなに貯金とか、もってないんだけどっ!
「ああ……大丈夫。悠希の分は俺が出すから」
「えええっ!そんなわけにはいかないよ!自分の分は自分で…」
「いーの!田中もさ、葵君の分は自分で出すつもりなんだよ。プレゼント、みたいな?あいつが恋人の分を出すっていうのに、俺が悠希に払わせたんじゃかっこがつかないだろ?」
そう言って、ふふっと笑うと「見栄だよ、見栄!」と楽しそうに言った。
「でも……」
いくら見栄とは言ったって、やっぱり結構な額になるし……ホントにいいのかなぁ……
「じゃあ、そんなに気になるならさ、旅行先で何か買ってよ」
「僕から、啓吾さんに?」
「『俺に』というか、『二人で』一緒のもの買おうってこと。旅の記念に、お揃いの土産ってどう?」
「お揃い?啓吾さんが僕とお揃いのもの、もってくれるの?」
「もちろん!いい思い出になるだろ?」
そう言ってくれた啓吾さんの顔が何だかとっても嬉しそうだったから……僕もそれっきりお金の心配をするのはやめにした。
ちょっと気にはなるけれど、気にしていたらせっかくの旅が楽しめないよね。
何だか二人のお邪魔をするみたいで、葵君には申し訳ないけれど……僕は1ヶ月後の旅行が今からとっても楽しみになった。
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