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第13話
参拝を済ませた僕たちは、何となくの流れでおみくじを引くことになった。
みんなで一緒に引いたら、やっぱりお互いの結果が気になるところ……だから、ひとり分ずつ見てみることにしたんだ。
まずは啓吾さんが開いてみた。
「啓吾さん、どう?」
「んー…お、『中吉』だ……何々?仕事『積み重ねが大事。あせらず』……おっ、病気『障りなし。よい』だって」
「ねえ、恋愛は?恋愛!」
「恋愛ね…えーと……『過去の自分と向き合うべし』……ってどういう意味だ?」
「……啓吾さん……」
「……長谷川……」
「……長谷川さん……」
「え!?何、この空気!別に俺の過去にやましいとことか、ないよ!」
「……啓吾さん、モテるタイプだもんね……いろんな過去があっても仕方ないよね……」
「まあ、会社でもモテまくってるからな、こいつ」
「……悠希君、かわいそう……」
「だからっ!たかがおみくじで、俺の過去を疑うなよな!そういう悠希のくじはどうなんだよ!?」
「え?僕の?……僕のは、あ!『大吉』だ!!」
「いいなあ、悠希君!なんて書いてあるの?」
「うーんとね……学問『迷わず進め。やがて実る』……恋愛『吉。相手を信じよ』」
「ほら!俺を信じろってことだろ?」
「うーん、そうなのかなー?……あれ?転居『火難の相あり。早めに移れ』だって」
「何だか気になるね」
「……うちに引っ越すか?」
「……………」
「大丈夫だって!おみくじで引っ越しを決めるってのも、気にしすぎだろ?次は葵、開けてみろよ」
「うん……えーとね、『吉』だ」
「啓吾さん、『吉』ってどの位いいの?『末吉』より上?『小吉』と、どっちがいいの?」
「えっ!今まで気にしたことなかったなー。ごめん、分からない……葵君、続き読んでみてよ」
「はい。えーと、恋愛『案ずるより産むが易し』」
「……………」
「……………」
「……………」
「え?どーしたの、みんな……何か変?」
「それって、『あれこれ考えすぎずに動け』ってことなんじゃない?」
「葵にぴったりと言えばぴったりで怖いな……」
「……もー、何それ!……あ、商売は『心機一転。春先が吉』だって!ビルのリニューアル、うまくいくかもね!」
「ホントだねー!じゃあ最後、田中さん開けてみてください!」
「おう。俺のは……『末吉』だ…」
「何、お前『末吉』か!つくづく運が悪いなあ!」
「うるせー!書いてることはいいかもしれねーだろっ。えーと……恋愛『良き縁は近くにあり。よく見よ』だろ……待人『すでに来ている』…」
「それ、どっちも葵君のことでしょ!?当たりじゃない!?」
「えっ……僕なんかでいいのかなー…もしかしたら、他の人とか…」
「おい。そこで引くなよ。『案ずるより…』だろ?考えすぎずに素直に喜べよ」
「あ……ホントだね。ごめんなさい」
「まあまあ。『末吉』のわりにはいいこと書いてんじゃないか?他には……わっ!」
「何だよ、人のおみくじ見て驚くなよ!」
「だってさ、ここ……旅行『難あり。焦らず越えよ』だって……今まさに旅行中なのに……」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……とーりあえず、昼飯食べますか!?」
「賛成!賛成!僕、お腹すいたー!」
「先輩もお腹すいたよね!?早くおみくじ結んでご飯食べに行こっ」
「……………うー……お前ら、俺を憐れんでるだろ!?憐れんでるだろー!!?」
今にも暴れ出しそうな田中さんを何とかなだめて、僕たちは来た道を戻った。
……おみくじが当たったかどうかが分かるのは、もう少しあとのことになる。
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