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第16話

僕と先輩の間で、うまくいかなくて困っていることって、きっといっぱいあると思うんだけど……今まさに困っていることをあげるなら、それは『食事のスピード』だ。 僕がとってものんびりなのか、急いで食べてるつもりでも他の人より遅い。 一方の先輩は、本当に噛んでるの!?って言いたくなるくらい早い。 で、今まさにその状況。先輩はあっという間にソフトクリームを食べ終わり、僕はというと溶け始めるクリームに苦戦しつつも、まだ半分も食べれてない。 どうしよう。先輩を待たせちゃう! 慌てて食べるけど、それでもすぐには食べれなくて… 「別に焦って食べなくてもいいぞ?急いでないし」 僕の気持ちが伝わってしまったのか、先輩が苦笑いで言った。 「でも、先輩を待たせちゃってるしっ」 「いいって、別に。焦って食べたって、おいしくないだろ」 「………でも……」 素直に「うん」と言えない僕に、先輩はまた困ったように笑う。 「じゃあさ、俺、先に店に入って会社へのみやげ買っとくから。無難に温泉まんじゅうにするし、時間もかからないから、葵はここでのんびり食べてな。すぐに戻るし、何かあったら店内にいるから。な?」 「………うん」 僕の返事を聞いて先輩は立ち上がると、僕の頭をわしゃわしゃと撫でて店内へ入っていった。 それを見送ってから、またペロッとソフトクリームを舐める。 「……………」 手にしているのはさっきと同じソフトクリームで、少しも変わったところはないはずなのに、何だかとっても味気ない。 大好きな味のはずなのに、何でかな。 先輩が横にいないからかな。 やっぱり早く食べ終わりたくて、急いで口にしていると… 「………あれ……悠希君と長谷川さんだ……」 道の反対側、斜め向こうのお土産屋さんの店頭で、仲良く買い物をする二人を見かけた。 二人は道に面して設けられているおみやげコーナーを見ながら楽しそうに話している。よく見るとそのコーナーには、天井から大きな猫のキャラクターの絵がさげられていた。どうやら二人が見ているのはそのご当地キャラのコーナーのよう。 風呂桶?の中にみっちりと猫が一匹入っていて、頭には畳んだタオルをのせている。目はふにゃあっと横に細く伸びていて、とっても気持ちよさそうな表情。一緒に下げられているポップを見ると『温泉にゃんこ』と書かれていた。 何を話しているかはここまで聞こえはしないけれど、とっても楽しそうで……長谷川さんが何かを耳打ちして、悠希君は頬を染めて照れて、長谷川さんはそんな悠希君が可愛くて仕方ないという顔で見つめていて…… いろいろと手にとったあと、二人とも同じ、手のひらにちょこんとのるほどのサイズのぬいぐるみのキーホルダーをひとつずつもって、店内に入っていった。 ……いいなあ。きっとお揃いで買ったんだ。 旅の思い出に同じ物を買って、お互いに一つずつ持つなんて羨ましい。 僕も同じようにお揃いのものを持ちたいけれど、とてもじゃないけどお願いできない。きっとそんなの恥ずかしいって……みっともないって、断られると思う。 それが分かってるのに、お願いなんてできないよね。 せっかく旅行に連れてきてもらって、僕なんかと一緒にいてくれるんだ。最後まで先輩には優しい顔でいてもらいたいもの…… 食べかけだったソフトクリームを、一口食べる。もう一口……もう一口…… さっきはおねだりできたのに、何だかまた、何にも言えない自分に戻ってしまったみたいだった… 温泉まんじゅうを買うだけと言っていた先輩が店先に戻ってきたのは、僕がソフトクリームを食べ終わってしばらくしてからだった。 「遅かったね」と尋ねると「黒餡と白餡とあって、どっちにするか迷ってた」とぶっきらぼうに言った。 何だか先輩らしくない悩みごとだなあと思ったけれど、機嫌を損ねてしまうんじゃないかと何だか不安になってしまって……それ以上聞くことはできなかった。

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