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第17話
白露神社から車で15分。
神社のそばの温泉街からは少し離れた静かな場所に、目的の宿「離れの宿 翡翠」はあった。
駐車場から石畳を通って母屋へ入るとそこでチェックイン。予約をとった田中が手続きをしている間、残りの3人はソファーに座って待っている。
この母屋には食事をとる会場と売店があるようだ。悠希と葵君はきょろきょろと辺りを見回しては、楽しそうに耳打ちしている。
いつの間にかすっかり仲良くなったこの二人。
初めて田中の部屋であったときには、悠希がこんなになつくとは思ってもなかった。6歳離れているというのに、それを感じないのがまた不思議だ。
そんなかわいい二人組を見ていると、手続きを終えた田中がこげ茶色の作務衣風の服を着た仲居さんとこちらにやってきた。
その仲居さんに案内されながら、駐車場から通ってきたエントランスとは反対側の扉から庭へと出た。
外へ出ると玉砂利の敷かれた道が、広い敷地に点々と建てられた離れに向かって、いく筋も伸びている。しゃりしゃりと耳に心地よい音を立てながら石灯籠や灌木、池などがあちこちに配置された庭園を歩くと、一軒の離れの前で止まった。
入口には「瑠璃」の文字。どうやらここが俺たちの泊まる離れらしい。
中に入ると仲居さんが部屋のアメニティや食事の時間などの説明をしてくれたが、かわいい二人組には関係がないようで。荷物を部屋の隅に置くとひとつひとつ部屋を覗いては、きゃあきゃあとはしゃいでいる。
俺と田中はそんな二人に苦笑しつつ、通された和室の座卓の周りに腰を下ろしている。
玄関から入って左側に広い和室が一つ。それがこの部屋。
その和室のさらに奥に寝室が一つ。右側にはもう一つの寝室。寝室同士は行き来できず、一度この和室に出なければならないようだ。
玄関から延びる廊下をそのまままっすぐ進むとトイレと風呂場の扉。風呂は脱衣所から中に入ってすぐに内風呂、さらに扉から外に出ると露天風呂がある。そんな造りの建物だった。
説明を終えたあと、部屋に備え付けのポットから煎茶を用意してくれた仲居さんに心づけを渡すと、礼を言って部屋を後にした。
「お前ら、どっちの寝室にする?」
一口茶を飲んだ田中は、部屋割りについて尋ねてきた。
「何?何か違いとかあるのか?」
「入って奥の部屋はここと同じ畳で、布団を敷いて寝る。右の部屋はフローリングで和風ベッドだってさ」
「へー……俺たち、この旅行はおまけみたいなもんだから、お前らが選べばいいよ」
「そうか?じゃあ、どちらの家にも畳はないから、奥の部屋にするかな?」
そう言うと、また一口茶を飲んだ。
そんなことを話しているうちに、一通り部屋を満喫したらしい二人が和室に戻ってきた。
「啓吾さん!お風呂、大きかったよ!お湯も張ってあったよ!」
浴室にも行ってみたらしい。顔が赤くなるほど興奮して、悠希が報告してくれる。
「そうかー!それは楽しみだね」
「うん!今から早速入っていい?」
「ああ」
一緒に入ろうか……と続ける間もなく、悠希は葵君の方を向いて、嬉しそうに言った。
「じゃあ、葵君!一緒に入ろ?
「うん!」
………………ん?
二人はそそくさとバッグの中から着替えや洗面道具を出し、寝室からそれぞれのサイズの浴衣をとって「いってきまーす!」と声のそろった挨拶をすると、うふふと微笑みあってうきうきしながら部屋を出て行った。
……それぞれの恋人をおいてけぼりにして。
「……………」
「……………」
「……………田中」
「……………何だよ」
「お前、のぞきに行くなよ」
「……………」
「……………」
「……………お前もな」
何なんだ、あのかわいい生き物たちは……
残された二人はもやもや?むらむら?した気分を抑えるためか、思わず同じタイミングで茶を一口飲んだのだった。
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