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第26話

外に出たからといって、葵の行方が分かるわけでもない。 辺りをきょろきょろと見るが二人の姿はどこにもなく、あてもなく目の前の道を進む。少しずつ日が沈むにつれて、気温も下がっていく。 ……ああ、何か羽織れるものを持ってくればよかった。 ずっと外にいる葵は体が冷えているかもしれないのに……やっぱり、俺は気がきかない。 自分の不器用さにまた嫌気がさし、胸が苦しくなる。 きっと、あいつは泣いているに違いない。泣いて泣いて……自分を責めているに違いないんだ。 自分は何にも悪くないのに、俺が悪かったのに、何でも自分のせいにして泣くんだ。 泣いてる葵を想像すると、ますます胸が苦しくなって……苦しくて、苦しくて……思わず足が止まったところで、前に葵が言ってくれた言葉が、頭に浮かんだ。 『……自分のこと、悪く言わないで?僕は、先輩が先輩だから好きなの……不器用なところも、かたくななところも、全部好き…』 ……ああ、そうだった。 葵の家で2年ぶりに夕飯を食べたときに、あいつが言ってくれたんだ。 あのときだってあいつは、俺のことが好きなのだとあんなに一生懸命伝えてたのに…… 俺だって、『ずっと一緒にいてくれ』って、あいつに言ったのに……何やってんだ、俺。 長谷川が言ったことは間違ってない。俺はバカだ。 何が「別れる」だ。 何が「幸せ」だ。 俺は何にも分かってなかった。 そんなものはもう、どうでもいいんだ。 俺は、あいつがいてくれなきゃ……葵が側にいてくれなきゃ嫌なんだ! 止まっていた足をまた前に進める。 目の前には分かれ道……右へ進むか、左へ進むか。 ためらって立ち止まったその瞬間、俺の耳にかすかな泣き声が聞こえた。 ……葵か!? 少しずつ近づいてくる嗚咽に身を固くすると、泣き声の発信源が木立の陰から姿を見せた。 「……………あ……」 そこにいたのは葵ではなく……泣きじゃくっている高瀬君だった。 ごしごしと目をこすりながら歩いているからか、全くこちらに気づいていないようで、 「高瀬君!葵は今、どこに……」 葵の行方を聞き出そうと声をかける。 すると、驚いたように顔を上げた高瀬君は、見たこともないような顔できっ、と俺を睨んだ。それからこちらへ駆け寄ると、俺の胸倉を掴んで揺さぶった。 「何してんの!あんた、葵君の恋人なんでしょ!?なのに何であんなこと言うんだよ!」 「……………」 「あんなに素敵な人なのにっ、あんなにあんたのことばっか、思ってんのに、何、で……何で」 「……………すまない」 「謝る相手は僕じゃないでしょ!?……ちゃんと、葵君と……仲直りしてよ……じゃ、なきゃ……あお…い…くん、が………」 最後まで言い終わらないうちに、高瀬君はまたぐすぐすと泣き始めた。葵と一緒にいるときはほのぼのとした雰囲気を醸しているが、内側にはあふれんばかりの感情を秘めているらしい。 そしてそれを爆発させたのは、俺だ。 「……ちゃんと仲直りする。だから、葵がどこにいるか、教えてくれないか…?」 すると、高瀬君は涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げると、右手を伸ばして指さした。 「……ここ、右に曲がってまっすぐ行くと池があるから……その横に置かれたベンチに、葵君は座ってる……」 「そうか。ありがとう」 「ちゃんと!ちゃんと仲直りしてよ!……ちゃんと、葵君を安心させて……」 「ああ……頑張る」 任せろ、と高瀬君の肩をポンと叩いて、教えてもらった道へと進んだ。 俺たちの……いや、俺の問題に巻き込んでしまって申し訳ないが、泣いている高瀬君のことは長谷川が何とかしてくれるだろう。 今の俺には、何よりもまず、葵だ。 言われたとおりに進んでいくと、目の前に池が現れた……そして、その横に設置された縁台にちょこんと座っているのは…… 「………葵」 名前を呼ばれてすっと顔を上げた葵は、俺を見てにこりと笑った。 その表情に思わず、はっと身構えてしまった。 ………葵は、泣いていなかったから。

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