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第32話
先輩と手をつなぎながら歩く。足元の灯篭を頼りに。
辺りはすっかり暗くなっていて、何人かのすれ違った人たちの顔もぼんやりとしていた。だから、誰も僕たちが手をつないでいることを気にとめてはいないみたい。
「あいつら、きっと待ってるだろうな」
『あいつら』って、長谷川さんと悠希君。二人には迷惑も心配もかけてしまった……それに。
「先輩……どうしよう……」
「ん?」
急に不安になってしまって、思わず足を止める。
「僕ね……さっき、悠希君にひどいこと言っちゃった……」
「ひどいこと?高瀬君に?」
「うん。『幸せな人を見てると辛い』って……『悠希君が羨ましくて妬ましいから、一人にして』って……僕のこと、心から心配してくれてたのに、僕、悠希君に『一人にして』って怒鳴ったんだ……」
「……………」
どうしよう。
僕と仲良くしてくれる大事な友達なのに、ひどいことを言ってしまった。
こんなんじゃ、もう仲良くしてくれないかもしれない……僕のこと、嫌いになったかもしれない……
止まっていたはずの涙が、またじわじわとあふれてくる。そんな僕を見て、先輩は困ったように笑うと「大丈夫」と言って、もう一度ぎゅっと抱きしめてくれた。
「お前の大事な友達だろ?ちゃんと謝れば許してくれるよ……高瀬君はあの長谷川が選んだ子だからな。必ず分かってくれる……それに」
「………それに?」
「許してくれるまで、俺も一緒に謝るから」
それから僕のおでこに一つキスをして「だから、勇気出せよ」と励ましてくれた。
また暗い道を歩いていくと、僕たちの離れがぼんやりと見えてきた。
入口に置かれた縁台に、並んで座る二つの影。そのうちの一つが、すっと立ち上がった。
「葵君!」
僕を呼ぶ大きな声……それは悠希君の声だった。
思わず先輩を見ると、にっこり笑って「ほら」と背中を押してくれた。
………うん。頑張る。
頑張って、ちゃんと許してもらう。
「悠希君!」
僕も負けないくらい大きな声で名前を呼ぶと、悠希君の方へと走り出した。
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