166 / 243
第35話
先輩はまた何かごそごそしているけれど、僕からは見えない。
何だか心配になって……せっかく買ってくれたのに、僕がうまく嬉しさを伝えられなかったのかなって不安になって、先輩の動きから目が離せない。
ドキドキしながら待っていると、先輩がまた僕のところに戻ってきた。さっきと同じ紙袋を手にして。
「緑が好きだと思ったんだけど、まあ、俺は色にはこだわりがねーから」
そんなことを言いながら腰を下ろすと、手に持っていた紙袋を大胆にびりっと破った。中から出てきたのは。
「こっちは紐が青だけど、交換するか?俺は青でも緑でも構わないし」
そう言って差し出した手のひらに、さっき渡されたのとは色違いの、温泉にゃんこのストラップがのっていた。
僕の手には緑の。先輩の手には青の。どちらも色が違うだけで形も大きさも全く同じ。
今「俺は色にこだわらない」って言ったよね。ということはこれ、一つは先輩のってこと?
それって、それって、つまり。
「……もしかして……もしかしてこれって、『お揃い』?」
「ああ」
「先輩と、僕とで、『お揃い』?」
「おう」
「僕、先輩と同じもの、持ってていいの?」
「もちろん……っていうか、あれ?葵、お揃いのものが欲しかったんじゃねーの?」
そう言ったあと「え?は?あれ?」っと、先輩は顔を赤くして慌てだした。
「わー、もしかして俺だけか!?一緒のもの、もちたかったの!お前、お揃いは嫌だったかー。ごめん、これはどっちも俺が…」
動揺しまくったまま、先輩の手が僕の持つ緑のストラップに伸びてきて、僕は思わず「やだ!」と叫んで、手にしていたストラップをぎゅっと手のひらの中に握りこんだ。
「これ、ぼくのだもん!もう返さないっ」
手の中にはきっと1000円もしない、お土産屋さんで買えるストラップ。他の人から見たらきっとたいしたことないものなのかもしれないけど……でも僕は違う。
これは先輩が買ってくれたもの。
僕のために買ってくれたもの。
照れ屋の先輩が、僕の「お揃いのものが欲しい」という気持ちに気づいて、こっそり二つ買っておいてくれたもの。
僕の好きな色を覚えてて、選んでくれたもの。
だから、特別。
これは特別なもの……僕にとっては宝物なんだ。
宝物がとられないように、僕は隙を見て先輩の胸に飛び込んだ。
ぽふっと抱きつくと、先輩の動きがぴたりと止まる。
温かい。
先輩の胸はとっても温かい、僕だけの場所。
ここでは自分の気持ち、正直に伝えられる……
「………お揃い…うれし…い……」
「そっか」
「……だい…じ、に……する……」
「おう」
「………あり…が、と……うぅ………」
「……………」
先輩は、何も言わずに僕の背中に腕を回すと、ぎゅっとしてくれた。
温かい先輩の腕の中。
手にはお揃いでもらった宝物。
大好きな人と一緒にいられる休日。
……僕、こんなに幸せでいいのかな…?
そう思うと、何だか涙があふれてきて…泣いている僕の背中を、先輩の手が優しく撫でてくれて。
ぽかぽかした気持ちになった僕は……そのまま先輩の腕の中で眠ってしまったのだった。
ともだちにシェアしよう!