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第36話

夜が更けて、酔いもそろそろ醒めてきたころ、一人で温泉に向かった。 葵は俺の腕の中で泣きながら寝落ちし、しばらく待っても起きる気配がなかったから、布団に寝かせてきた。 結局、「一緒に温泉」も「浴衣でイチャイチャ」も、何にもしてない!何にもしてない、けれど……まあ、いい。 すげー嬉しそうに「お揃い」を喜ぶ顔が見れたし。俺たちにはまだまだ「これから」があるんだし。また次回でいいさ。 脱衣所に入ると、 「あれ?先客か?」 籠の中に一人分の浴衣が置かれていた。葵は寝てるから、長谷川か、高瀬君か。 ま、どっちも男だし。一人で入ってるなら、濡れ場に遭遇することもないだろうし。 そのまま俺も浴衣を脱いで隣の籠に入れる。カラリと扉を滑らせて中に入ると、 「おう。お前も風呂か?」 露天風呂につかっているのは長谷川だった。ざっと身体を流して、俺も露天風呂に入る。 「葵君は一緒じゃないのか?」 「部屋で寝てる」 「……ふーん。そんなに疲れるほど燃え上がったわけ?仲直りエッチ」 「何だそりゃ!?お前の頭の中って、そんなんばっかだな!」 エッチどころか、キスすらしてねーわ!ったく、んなことしか頭にないのかよ! 欲求不満ぎみの俺は少しばかりイラッとしたが……まあ、何とか仲直り自体はできたけれど、それもこれも、こいつのおかげなわけで。 だから。 「………さっきはさ、助かった。その……お前がいなかったら、仲直りなんてできなかったと思う。ありがとな」 らしくないけれど素直に礼を言うと、長谷川はふっと笑って言った。 「どういたしまして。でも、俺がいなくたって、ちゃんと仲直りはしたと思うぞ。何だかんだいって結局、二人とも相手のことを大事に想ってんだから。離れようなんて、今さら無理だってーの」 「………そんなもんか?」 「そんなもんだよ。まあ、助かったと思うならさ、今度俺と悠希がうまくいかなくなったときにも、間に入って中をとりもってくれよ」 「お前らが別れるなんて、想像もできないけれど?」 「俺もできないよ……でも、万が一ってこともあるからな」 そう言って笑った顔が少し寂しげだったのは、不本意ながら別れていた1ヶ月のことを思い出したからだろう。 あの経験が今も長谷川を支配している。何でかそんな感じがした。 「そういえば、高瀬君はどうしてる?」 温泉に一人ってことは、部屋で留守番か?どこへいくにもくっついてきそうなイメージだが。 すると、長谷川は苦笑いして言った。 「……部屋で寝てる。ちょっとのぼせたみたいで」 「あー……じゃあ、お前もイチャイチャはできなかったってか?」 「いや、イチャイチャはした。で、のぼせちゃった、みたいな?」 「は?イチャイチャしてのぼせるって……いったいどこでシタんだよ」 「どこって……そりゃあ……」 尋ねられた長谷川は、返事をしながら、露天風呂奥の大きめの岩が組んであるところに目をやって。 「あー、もー、いいっ。んなの、知らないほうがいいわっ」 何が楽しくてよその恋人たちの夜の生活を想像しなきゃならんのだっ。 今度はへらっと笑った長谷川に、高瀬君は結構大変だなあと思う俺だった。

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