181 / 243
第50話
「……………」
「……………」
初めてを捧げる?覚悟ができて、脚をぱっかりと開いた俺と。ローションとコンドームを握りしめながら、俺の股間を見て固まってしまった葵と。
しばらく二人、一言もしゃべらずに固まったまま。
って、なんだこりゃ。
勢いのまま突っ走ってこんなことになっているが、冷静に考えたらまあ、滅茶苦茶だよなあ。
うん。
葵が固まるのも分かる。
……さて。そろそろ折れてやるか。
んで、ちゃんと本当のことを……女と自分を比べる必要はないんだってことを、話してやらなきゃな。
開いてた脚を閉じて、正面にきちんと座り直し、葵の顔を覗き込むと、
「……………ふぇっ……」
小さな嗚咽とともに、葵はぽろぽろと涙をこぼして、持っていたローションとゴムを俺に向かって放り投げた!
「うおっ!?」
突然のことに驚きつつも、なんとかキャッチ!
空中で受け取れたことにほっとしつつ、葵の方を向き直すと、葵は布団の上に丸くうずくまって、しくしくと泣いていた。
………しまった。やりすぎたか。
カッとなって、これまで考えたこともなかったことを言って、無理やり迫って。それがこいつにとっては、余程いやだったのだろう。調子に乗りすぎてしまったようだ。
とはいえ、俺を抱くのは泣くほど嫌だなんて、ちょっと俺の方が泣きそうなんだけど!?
……まあ、いいけどさあ……。
「ごめんな、葵。いじわるだったな、俺」
丸まってる葵に声をかけて、そっと身体を抱き起こすと、うつむいたまま俺の首に腕を絡ませて、またもやぎゅうぎゅうと抱きついてきた。
「ごめんな……ごめん……悪かったよ…」
謝りの言葉を囁きながら、何度も背中を撫でてやると、次第に嗚咽も治まってきた……ほっとした俺の耳に、葵が涙声で話し始める。
「……先輩と…交替は……や……」
「うん、うん。交替なんて無理だよな?」
「……無理、とかじゃ、なくて……嫌なの…」
「………ん?……それ、どういう意味だ?」
「先輩に抱いてもらえなくなるの……やだ………交替したら……もう、してもらえなく…なっちゃう……」
「……………」
そこまで言うと、またひくひくとしゃくりあげる。
よしよしと背中を撫でてなだめると、それにあわせるようにぎゅっとくっついてくる。
「葵、俺に抱かれたいの?」
「……うん……先輩が僕の中にいると、嬉しいの……気持ちもいいけれど……それよりもっと、満たされる……」
「………そっか」
「それが……できなく、なるのは……や………して、もらえないの……悲しい……」
「………うん。俺もそうだよ」
「先輩、も?」
「そう。俺も、お前の中に挿ってるときは、すげー満たされるよ……気持ちもいいけど、そんなのどうでもいいと思えるくらい、お前の全部が欲しくなる」
「……僕の全部はもう、とっくに先輩のものだよ?」
「うん……でも、分かってても不安になる。お前も同じなんだろ?」
不安だから、女の子と自分を比べてしまうんじゃないのか?
ライバルになるかもしれない、想像の中の女と自分を比較して、女には勝てないなんて結論付けては自分を納得させてきたんだろ?
「同じ?」
「そ、同じ。俺たち、見えない誰かに恋人をとられるんじゃないかって、バカみたいに心配してるんだ」
「……………」
「でも、安心しろ。俺を満たしてくれんのはお前だけで、一緒に気持ちよくなれるのもお前だけなんだよ」
「………僕…だけ…?」
「だから我慢なんてするな。一緒がいいんだよ、俺は。お前もそうじゃねーの?」
ぎゅっとしがみついていた葵はこくりと頷くと、俺の顔の方を見て嬉しそうに微笑んだ。
ともだちにシェアしよう!