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第55話

「あ、本当だっ。月が浮かんでる!」 内風呂から外に出ると、葵は嬉しそうな声をあげた。 コトがすんでしばらく……二人でまったりしたあと、一緒に温泉に入ることになって。いつものように葵を、頭の先からつま先まできれいにしてやってから、露天風呂へと出た。 空を見上げれば、さっき葵に話したよりも高く、より見えやすい位置に月は移動していた。そのおかげか、水面に写る月はこころなしか先程よりもくっきりとしているようで。 葵は俺が想像していたよりもはるかに喜ぶと……俺のことはすっかり忘れたようで、ひとりで湯の中に入っていった。 ……おーい、俺のこと、忘れてるぞー。 さっきまではあんなにぎゅうぎゅう抱きついて大変だったくせに、もうすっかり温泉に夢中。水面に写る月をすくいとれないかと、両手を合わせてお椀状にしては、子どもみたいに試している。 まあ、温泉に嫉妬するとか……しないけどさ。でも。 「ほら、そこまで。お前はこっち」 遅れて湯につかった俺は、葵の腕を掴むと引き寄せて抱き込んでやる。 すっかり俺のことなんて忘れていた葵は「ふぇっ!?」と変な驚きの声をあげたが、俺の足の間に収まってぎゅっと抱きしめられると、すんなりと力を抜いて俺の胸に背中を預けてきた。 「………月じゃなくて、俺を構えよ…」 普段だったら絶対言わないけれど、今夜は特別な気分で……思わず本音をこぼしたら、葵が嬉しそうに小さく笑った。 「……先輩……ありがとう……」 「ん?何が?」 「旅行に連れてきてくれたこと」 「ああ、それは気にすんな。俺がしたかったこと、しただけだから」 「それに、悠希君や長谷川さんと出会わせてくれたことも」 「まあ……ちょっと口うるさいところもあるけどな」 ……でも、いつも助けてもらってる。二人には感謝しなければいけないことがいっぱいだ。 あの二人がいなかったら……今こうして、葵と一緒にはいられなかったかもしれないし。 「………それから…」 「それから?」 「………僕のこと、あきらめないでくれて…ありがとう…」 「……………」 そう言うと、恥ずかしくなったのか……葵は小さくうつむいた。 しっとりと濡れた、その細い首筋には紅く滲んだ俺の所有の証。 「………あきらめねーよ…」 「……………」 「お前が何て言おうと……思おうと……俺はもうお前を手放したりしないからな……ずっと、一緒だからな」 「っ!」 俺の言葉に、もたれていた身体を起こして葵が振り向く。 その驚いたような、喜んだような顔がかわいくて……ぷっくりとした口唇にキスをした。葵はためらうことなく、それに合わせてきて……その吐息に誘われるように両胸の慎ましい突起を弄ると、身体をふるっと揺らした。 この、快感に弱い、どこもかしこも甘い身体も。 そんな淫らな身体の中に存在する、素直で魅力的な心も。 全てが愛しく、全てが俺を夢中にするんだ。 明日も葵と一緒に過ごせる。目が覚めたら、そこには葵がいる。俺の横でかわいい寝息をたてているんだ。 ………俺にはもったいないほどの幸せだ。 やがてやって来るであろう朝を思いながら、葵のモノに手を伸ばす。 キスと乳首への刺激で、すでに湯の中で勃ち上がっている…… そんな俺たちの甘い時間を、月だけが見ていた。

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