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第4話
僕の下半身の様子を見て、先輩が何だか嬉しそうに笑うのが、耳もとで感じられた。
……僕の反応に満足しているのかもしれない。
でも……
まずい……まずいよ、このままじゃ……先に進んじゃう……
「まっ、待って!ここじゃダメだよ」
焦った僕は、前に伸びてきた先輩の手を掴んで止めた。
……だってここはキッチンだから。
こんなことするための場所じゃないし、それに…
「別にいいだろ?誰かに見られてるわけじゃないんだし」
「それはそうだけどっ、でもダメ!するんだったらちゃんとベッド、いこ?」
「えー……俺は一秒でも早く、お前と繋がりたいんだけど?」
「……………」
そんな嬉しくなってしまうようなこと、言わないでよ…
だったらいいか……って、受け入れてしまいそうになるけれど。でもダメ。
だって……
「………でも……ここにはゴムもローションもないから……できないんじゃないの?」
前に先輩が言ったんだ──『好きだからコンドームを使うんだよ』って。
『お前の身体に負担をかけたくないから』って。
『大事な奴につらい思いをさせるくらいなら、気持ちいいことも我慢する』って、先輩が言ったんだ。
でも、今日はここでするって…
ここは台所なんだから、僕たちが繋がるための道具なんて、一つも置いてないよ?……それでも本当にここでするの?
それって、前に僕に言ってことと、矛盾するんじゃない?
……あ、そっか。
これって僕が『大事な奴』じゃなくなった、ってことなのかも。
だからセーフセックスじゃなくたって構わないし、気持ちいいことが優先されるんだ…
すっと昂ぶっていた熱が引いて、かわりにじわじわと涙が滲んできた。
……口には出さないけれど、先輩は態度で示しているんだ。そんなことにも気づけないなんて、僕は何て馬鹿なんだろう…
もう、何だか止める気もなくなって……それならば受け入れるしかないやって心が決まって……掴んでいた先輩の手を離す。
先輩のを挿れやすいように少し足を開いて、やってくるだろう痛みをこらえるために呼吸を整えていると…
「─────え?」
目の前に不意に、何かが差し出された。
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