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第12話

改札を通ってホームに移動すると、すぐに電車が入ってきた。 急いで乗り込むと、車内は朝ほどではないけれどなかなかの混雑で、座るのはあきらめてドアの側に立つ。 ……何だかとっても疲れてしまった。 窓の向こう側では、少しずつ暗闇が街を支配していく。 それと同じ速さで、僕の心の中を疑念が支配していくようで。 ……あの人は本当に、先輩の恋人なのだろうか? そういえば、付き合って一年近くだと言ってたような……だとしたら、僕と先輩が離れていた時期とちょうど重なる。 あの曖昧であやふやだった時期に先輩が彼女と付き合い始めたと言うのなら、それはとてもありそうな話で……しかもそれは、仕方がないことのような気がするんだ。 だってあの頃、僕たちが付き合っているかどうかなんて……本人でさえ、はっきりと分かっていなかったんだから。 そんな日々の中で、先輩が新しい出会いを望んだとしても、腹をたてることはできないだろう。ひとりで過ごすのは、やっぱり寂しいから。 そういえば僕たちが再会するきっかけになった先輩からのメールだって、本当に僕宛だったのか……今となっては疑問だ。 もしかして彼女に送るつもりだったものを、間違えて僕に送ったのではないだろうか… 部屋を訪ねたとき、何故か先輩は驚いていたし……あのときはわけが分からなかったんだけど……もしもそれが僕の想像どおり、あの人に送ったつもりで待っていたのに僕が来たということなのだとしたら、驚くのも当然だ。 いろいろと考えてみると、僕のほうがただの浮気相手で、本当は遊びだったような気がしてくる… クリスマスもバレンタインも、最初は約束なんかしてなかったし……もしかしたら彼女と過ごす合間に、僕と会ってたのかもしれない。 二人同時に手に入って、二人とも手放すのは惜しかったのだろうか…? でも、あの人は言ってた。 『そろそろ結婚しようって話もある』って… 『夏には、ご両親に紹介してもらう予定だ』って… じゃあ、先輩は僕のこと……どうするつもりなのだろう。 夏が来たら、捨てるつもりなのかな… それとも僕には結婚することを秘密にして、関係は続けていくつもりだったのかな… ふう、っと小さくため息をつく。 今日は電車が混んでいてよかった。 がらがらの車両だったなら……きっと、泣いてしまっていただろうから。

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