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第16話

───え?何これ? 一体何が起こっているんだろう……今日はもう会えないんだと思ってたのに……今日はもう、あの人と過ごすんだと思ってたのに…… 驚いて何にも言えなくなった僕に、先輩はコンビニの袋を差し出した。 「やる。具合悪いなら、こんなのがいるかなと思って」 袋の中身を覗くと、レトルトパウチのお粥とスポーツドリンクが2本。それに……いつも先輩が僕のために買ってきてくれる『なめらか生クリームプリン』が、今日も忘れず入っていた。 ……どうしてこんなこと、するんだろう。 僕は先輩の家から逃げ帰ってきたのだというのに… 本当のことを聞くのが怖くて、あの人に先輩を譲ってきたのに… こんなことをされたら……こんなふうに優しくされたら……あの人より僕を選んでくれたんだって思ってしまう。 そんなバカみたいな勘違い、しそうな自分を抑えることができなくなってしまう… 「……あのね……少し休んだら、体調は良くなったみたい……心配はしなくても大丈夫だよ?もうすっかり元通りだから……」 『………だから、あの人のところに戻っていいよ。』 そう言ってあげるのがいいって…そう言ってあげないといけないって……分かっているのに、言葉は口から出てこなくって… 「……何か、作ろうか?……僕、今から夕飯作るから、あの……一緒に食べていって?……冷蔵庫にあるものでできるなら、何でも作るよ?」 少しでもいいから、側にいて欲しい……だから思わず、お願いごとを口に出してしまった。 こんな自分勝手な僕のこと、先輩は許してくれるだろうか… 不安な気持ちで、恐る恐る先輩の返事を待っていると… 「じゃあ、これ返す」 手にしていたもう一つのレジ袋を、僕の前に差し出した……って、これは… 「さっき俺に渡してった袋。家で中、見たんだけどさ……夕飯はハンバーグのつもりだった?」 「……えっ…と……うん」 「あー、やっぱり!じゃあ俺、今夜は葵のハンバーグ食べたい。マジでうまいし」 「……………本当に?……僕の作ったもので、いいの?」 確かにハンバーグは先輩の好物で……それを知っていて、今日の夕食に選んだんだけど… でも僕、料理教室とかに習いに行ったわけではないし、本当はあの女の人が作ったもののほうがおいしいのかもしれない。 それでも、いいの? 「だから、お前のがいいんだって。正直、店で食うのより、俺はうまいと思うけど?」 「………お世辞じゃなくて?本当に?」 「ホント、ホント……って…この時間からそんな料理作るの、やっぱり大変か?だったら…」 「ううん!大丈夫!……僕も、自分の作ったハンバーグ……先輩に食べてもらいたいよ!」 ……というか、本当はどんなものでもいい。 先輩が僕を必要としてくれるんだったら、僕は何でもできるよ。 先輩は僕の頭をくしゃりと撫でて「じゃあ、頼む」と言ってくれたので、僕は大急ぎで鍵を取り出すと部屋のドアを開けたのだった。

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