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第17話

セミダブルのベッドは、男性二人で寝るにはきつい。 もう少し大きいサイズに買い替えようかと考えたこともあったけれど、結局やめてしまったから、うちのベッドはセミダブルのままなんだ。 狭いベッドには狭いベッドなりの良さがあって……だって、このサイズなら、二人くっついて眠らないといけない。ぴったりと身体を寄せ合わないと、どちらかが床に落ちてしまうことになるから。 じゃあ、くっついて寝るのは仕方がないね――って、先輩と寄り添って寝られる口実になると思ってそのままにしてる。 ……でも、今日は正直……複雑な気分。 二人一緒に部屋に入ったあと、先輩にはお風呂に入ってもらって、僕はキッチンで夕食を作った。 風呂から上がった先輩と一緒にご飯を食べて……先輩はハンバーグを嬉しそうに食べてくれて……それから今度は僕がお風呂に入った。 風呂上りはいつものように二人並んでテレビを見ながら、なんてことはない日々のあれこれを話して、まったり過ごした。 ……先輩から、彼女の話は何もなかった。 部屋にやって来た先輩はスーツじゃなくて普段着に着替えてた。だから一度自宅に帰ったはず。ならばきっと、あの人に会ったに違いない。 僕よりも早く部屋にやって来れたのは、先輩がタクシーを使ったからだ。だから乗り継ぎに時間のかかった僕よりも早く着いた。 部屋の前で、先輩がどれくらい待ってくれたのかは分からないけれど、きっと彼女と話すくらいの時間はあったんじゃないかな……いや、もしかしたら一緒にタクシーに乗せて、家まで送ってからここに来たのかもしれない。 でも、僕には彼女のこと……何にも言わないつもりなんだ… ……いろいろなことを考えることができて、また僕の頭の中はぐるぐるしだす。 だって、二人で一緒に話している間もやっぱり先輩の携帯は、着信を伝えるライトがひっきりなしに点滅していて……先輩は画面を確認することはあっても、一度も電話には出なかったんだ… 先輩の考えてることが、ちっとも分からない。 一体どうするつもりなんだろう……僕のことも、彼女のことも。 ごろっと転がって、仰向けから横に身体の向きを変えて壁の方へつめる。 ……トイレに行くと言っていた先輩は、携帯電話を手にしていた。 今頃、あの人と電話でもしているのかもしれない。 きっと「おやすみ」と挨拶をして……そして、そのまま僕の所へ戻ってくるんだ。 先輩はあの人と甘いやりとりをした唇で、このあと僕にキスをするのだろうか… あの人を抱くはずだった手で、今夜は代わりに僕を抱くのだろうか… 泊まるからといって、いつも必ずセックスをするわけではない。 お互いのを触りあって満足することもあれば、キスだけして抱き合って寝ることだってある。 ……今夜はどうするつもりなんだろう… 僕は、こんなもやもやした気持ちのまま、先輩に抱かれるんだろうか……何にも解決なんかしてないのに……身体だけは繋げるんだろうか… 僕は……僕は……何なんだろう… 僕は先輩に、何を求められているんだろう… 僕は先輩を満足させられてるのかな… 僕より、あの人の方が… ───ガチャッ… 玄関のドアが開く音がした。 ……やっぱり、先輩は外で電話をしていたんだ。 玄関からゆっくりとこちらに近づいてくる足音……電灯を消す音… ───ぎしっ… ベッドが軋む音がして、身体が揺れる。先輩が僕の横に転がったサイン… 「……………」 しばらくそのまま、時が止まってしまったように二人とも動かない… もう、今夜はこのまま寝るのかもしれない。 ふうっと小さく息を吐くと… 「…………………葵……」 囁くような甘い声と一緒に、先輩の手が僕の身体に触れた。 「───────っ!」

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