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第18話

目の前には、ザーザーと音を立てて流れる渦が見える。 視界がぼやけているのは、眼鏡をかけていないから……というだけではない。 ぽろぽろと溢れ出す涙が、目の前の渦に飲み込まれては消えていった。 ……僕もこのまま消えてしまいたい。 そう思ったら、また強烈な吐き気が襲ってきて、僕はまた便器に顔を近づけた。 ───こんなことは初めてだった。 先輩はいつもと同じように、僕の身体に触れた……ただ、それだけだった。それだけだったのに…… 先輩に触られた途端、僕の身体が悲鳴を上げた。 今までに感じたこともないような吐き気に襲われて……思わずトイレに駆け込んだ僕は、嘔吐した。 吐いて、吐いて、泣きながら吐いて……先輩と一緒に食べたものは全部出し尽くして…… ……僕の中は空っぽになった…… 「───葵、大丈夫か?」 心配げな声が上から降ってきて、ゆっくり顔を上げると先輩が立っていた。 「悪い……やっぱりまだ、調子悪かったんだな……無理してたんだろ…?」 違う。 体調が悪いって言ったのは先輩から逃げるための口実で、本当はどこも悪くない。 悪くないのに……何で…… 「とりあえず、横になろう……ほら、立てるか…?」 そう言って、先輩が僕の腕を掴もうとして── 「─────ぃやっ!!」 ………僕は思わず、先輩の手を払ってしまった。

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