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第20話

何、これ? 思わず閉じていた目を開けると… 「……毛布?」 いつも先輩が使っている毛布が、僕の身体を包んでいた。 ……先輩の匂いがする。大好きな先輩の匂い… 「……大丈夫か?寒いんだろ……鳥肌立ってる」 上から降ってくる、先輩の声。 そっと顔を上げると、目の前にはミネラルウォーターのペットボトルと……心配そうな先輩の顔。 「これで口をゆすいで……水分もとったほうがいい……本当はスポーツドリンクの方がいいけど、とりあえずうがいでもしてみたら少しはすっきりするだろ」 「………あ、りがと……」 ペットボトルを受け取ると、キャップに手をかける。力を入れなくてもするっと蓋があいた。先輩が先にあけてくれていたみたい… 冷たい水で口をゆすいで、一口水を飲むと、少しだけすっきりした気がした。 「とりあえず、床は冷たいし……吐き気おさまったんなら、部屋に戻ろう。そこ、握ったら立てるだろ?」 僕の手からペットボトルをとると、先輩は僕が自力で立ちあがって動けるよう、指示を出していく。 そこを持って……壁を伝っていけ……焦るなよ……足元の段差に気をつけろ…… 指示は出しても、先輩が僕に触れることはない……僕が先輩に触られるのを嫌がったからだ。 僕の体調を、心を、気遣ってくれているんだろう。触れば僕が嫌がるって……また吐いてしまうって考えたんだと思う。だからきっと、触らないんだ… ほらね。先輩は優しい。優しい、けど……先輩の優しさが嬉しいような……寂しいような……切ないような… 何もかもを吐き出してからっぽになった僕の身体は、すっかり軽い存在になってしまったようで、ゆらゆらふらふらと揺れながら、ゆっくり部屋に戻った。 そんな僕の後ろを、先輩は何にも言わずに付き添ってくれた。

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