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第21話
部屋に戻ると、いつも二人で寝ているベッドの下に、布団が敷かれていた。
僕の家に一組だけ置いてある、お客様用の布団。先輩が再会してから初めてうちに来て、僕を看病してくれた夜に使ったきりの布団。
……それが今は押し入れから出されていた。
「お前、具合悪いんだろ?俺はどこでも寝れるからさ。お前は今夜、このベッドでゆっくり寝ろよ」
そう言って先輩は僕に、ベッドに寝るよう促した。それに従ってベッドの上にころんと転がると、先輩は身体がちゃんと包まれるように毛布を掛け直してくれた。
「ペットボトル、枕元に置いとくから、喉が渇いたらこまめに水分はとるんだぞ。俺、今夜はこの布団で寝るから。また具合が悪くなったら夜中でも起こしていいからな」
「……うん……わかった……」
「遠慮しなくていいからな」
「……うん……ありがと……」
「じゃあ、おやすみ」
「……おやすみなさい……」
僕の返事を聞いてから、先輩は部屋の電気を消した。
ふっと明かりが消えて、暗闇の中でごそごそと先輩が立てる音がする。しばらくするとそれもやんで、二人のいる部屋を静寂が包んだ。
ぼんやりと闇に浮かぶ白い天井を見る。時間を忘れてその微かな白を見つめていると、ベッドの横から小さな寝息が聞こえるようになった。
ころんと寝返りを打ち先輩の方を向くけれど、いつかの夜のように、ベッドの上からは先輩の姿は見えなかった。
先輩は横にいるはずなのに、その姿は見えない。
先輩は側にいるはずなのに、その心が分からない。
手を伸ばして、先輩に抱きつきたい。
先輩の横で、先輩の存在を感じながら眠りたい。
……でも、怖くてそんなことできない。
怖い。
先輩がいなくなってしまうのが。
他の人にとられてしまうのが。
先輩に捨てられてしまうのが。
僕はまだ……先輩の横にいる価値があるのだろうか…
じわじわと涙腺が緩んでくるのが分かって、僕はぎゅっと目をつぶった。
その夜から先輩が、僕の身体に触れることはなくなった。
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