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第23話

目を覚ますと、もう朝だった。 僕は自分のベッドに転がっていて、身体にはちゃんと毛布がかけてあった。 「─────先輩?」 恐る恐る声をかけるけれど、返事は返ってこない。 枕元の時計を見ると針は7時50分を指していた。この時間なら、もう先輩は出勤中だ。 ……昨日はあのまま寝てしまったのかな。また、先輩に迷惑をかけてしまった… ゆっくり足を床に下ろして立ち上がると、ちゃんと寝ることができたからだろうか……少し身体が軽くなったような気がした。 窓辺に移動してカーテンを開けると、朝の眩しい光が僕を照らす。 目を細めながら窓を開けると、朝の爽やかな空気が僕の身体を包んだ。 すうっと胸いっぱいに空気を吸い込んで、ふうっとゆっくり吐き出す。 そうやって、深呼吸を繰り返すうちに、何だか新しい自分になれたような気がするから不思議だ。 ふと目をやると、ベッドサイドの棚の上に小さなメモがのっていた。 手にとると、見慣れた先輩の文字。 『時間になったから、先に出る。  無理しないでゆっくり休めよ。  また連絡する』 「─────起こしてくれてよかったのに」 ちょっと右上がりの、勢いのある先輩の文字に思わず笑みが零れる。 でも……先輩の優しさが、今は何だか物足りなかった。 また、深く息を吸ってゆっくりと息を吐く。それを何度か繰り返しながら、心を整えていく… 「─────よし」 気持ちが落ち着いたところで、手にしていた先輩からの手紙をくしゃりと握りつぶした。 そして、それをぽいっとゴミ箱に捨てる。 ………大丈夫。覚悟はできたみたいだ。 「別れよう」 好きな人には幸せでいて欲しい。 そして、何にもない今の僕に、それはできないことだから。 これ以上、先輩の側にはいられない。 ───もう、僕の中に迷いはなかった。

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