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第25話

仕事帰り、先輩の家までの道をとぼとぼと歩く。 何度となく歩いたこの道も、今日で歩き納めだ。先輩に用がなければ、駅に降りることもない……そんな道だから。 駅から先輩の家までの道は、のんびり歩いても10分くらい。何度か曲がったり横断歩道を渡ったりしているうちにどんどんアパートに近づいていく。 いつもなら夕飯の材料が入ったレジ袋を片手に歩くけれど、今日はそれはない。そのかわりいつも肩から掛けているバッグの中にエコバックを数枚入れてきた。 先輩の家に置いているものは服ばかりだし、厚手の冬物の服はこの前持ち帰ったばかりだから、これだけで荷物はおさまるはずだ。 最後の曲がり角を曲がって、先輩のアパートが見えたとたん、僕の足が止まった。 「─────あ…」 アパートの前の道に二人が──先輩とあの人が立って、何か話をしていたんだ。 ………最悪だ。 なんてついてない……タイミングが悪いよ… とっさに道路の端によって、二人には気づかれないように身を潜める。 先輩はこちらに背中を向けているから、僕の存在には気づいてないみたいだし、僕からも先輩の表情を見ることはできない。 あの人はこちら向きだけど、先輩の身体に隠れて見えたり見えなかったり……でも、ちらりと見える顔は何やら深刻なような……必死なような……そんな表情だった。 どくん、どくん。 心臓が、びっくりするくらい大きな音を立てて鳴っている。 ……苦しい。苦しくて、倒れてしまいそう… 今、あの人に会うのは絶対嫌だった。 二人に気づかれて、この前偶然会ったときみたいに気軽に声をかけられでもして、『彼女だ』なんて紹介なんかされてしまったら……僕、そのまま倒れて死んでしまうかもしれない。 いや、死んでしまったほうがまだましなのかも……きっとわあわあと泣いて、わめいて、先輩に面倒なやつと思われてから捨てられてしまうんだ、きっと。 ……嫌だ、そんなの。 今日はもう、やめとこう。別にしっかりと約束していたわけでもないし……先輩はまだ、僕がここにいることに気づいてはいないみたいだし… 帰ろう。 で、また次の早番の日にでも仕切り直そう。 そう思って一歩後ろに下がった、そのとき。 ─────あっ。 あの人は先輩の右腕に抱きつくと、ぐっと自分の方へと引き寄せた。 それを見た瞬間、僕の頭は真っ白になって……気づけば走り出していた。

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